果樹や茶生産者に欠かせない常備剤
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◆さまざまなカンキツ類や茶の産地
「3、4年前に一度防除暦からはずしたことがあるけれど、ヤノネカイガラムシが出てくるので、やはりスプラサイドがなければということで再び防除暦に入れ、カンキツ類の生産者にとっては常備の薬剤になっている」と、JAさつま日置北部営農センターの内田一平センター長。
鹿児島県薩摩半島の中西部に位置するJAさつま日置は、西側は東シナ海、東は県都・鹿児島市に面し、温暖多雨な気候を活かした農業が盛んな地域だ。
生産されている農畜産物は、お茶、早期水稲、サツマイモ、カンキツ類、野菜などの園芸から、肉牛、肉豚、ブロイラーなどの畜産業まで多彩だ。
カンキツ類では、鹿児島県独自品種の極早生「かごしま早生」、9月ころから出荷する早生の温州ミカンをはじめ、ポンカン、デコポンや文旦の一種であるサワーポメロなど、さまざまな品種が「それぞれ量的には他産地ほど多くはないが」栽培されているのが特徴だという。
カンキツ類以外にも、平成22年に「かごしまブランド」の産地指定も受けた高品質なマンゴーもある。
東シナ海に面したいちき串木野市にある北部営農センター管内でも、かごしま早生やポンカン、デコポンなどのカンキツ類の栽培が昔から盛んだ。
内田センター長は、県の果樹試験場での研修を経てJAに入組以来、長年にわたってここで営農指導を行うと同時に、自分でも借地を含めて1.2haのほ場で、サワーポメロや温州ミカン、ポンカンを生産している。
(写真)
上:内田一平センター長
下:かごしま早生(地方特産食材図鑑より)
◆防除適期が幅広く使いやすいのがいい
カンキツ類で防除が必要な病害虫は数多いが、なかでも防除が難しいのがカイガラムシ類だ。カイガラムシ類には農業害虫だけでも、コナカイガラムシ類、ロウムシ類、マルカイガラムシ類などを中心に日本に250種類いるといわれている。
カイガラムシ類は目に見えないところで発生・増加し、徐々に樹全体にダメージを与えるやっかいな害虫で、発生がないように見えても、幹のくぼみなどに潜んでいる可能性が高く、被害が目に見えてからではすでに遅く、日ごろからほ場をよく観察し、定期的に防除を徹底する必要がある害虫だといえる。
カイガラムシ類を防除する薬剤はいくつもあるが「スプラサイドがいろいろなカイガラムシに一番よく効く」と内田センター長は太鼓判を押す。
スプラサイドは上市されて45年経つが「新しい薬剤もいろいろあるが、特定のカイガラムシには効くけれど、スプラサイドのようにいろいろなカイガラムシに効くわけではない」ことや「生育の進んだカイガラムシにも浸透力があり効果があるので、急ぎの作業があるときは、そちらを済ませてから薬剤を散布しても防除が間に合う」など、幅広いカイガラムシ類によく効くことと防除適期が幅広いので使いやすいという。
(写真)
ハウス栽培の不知火(しらぬい)(デコポン)
◆カミキリムシとの同時防除で効果が
この地域で発生が多いのは露地栽培の場合は、ヤノネカイガラムシ(マルカイガラムシ類)で、ハウス栽培の場合はフジコナカイガラムシ(コナカイガラムシ類)だという。
鹿児島の特産であるかごしま早生の露地栽培の場合、根元に白いマルチを張り栽培するが、マルチのすぐ上の根元にゴマダラカミキリ(コウチュウ目カミキリムシ科)が発生することが多いという。
このゴマダラカミキリムシにもスプラサイドは効果があるので、羽化直後に「根元付近に散布すると効く」から、5月末から6月にかけて「カイガラムシと同時に防除」することができる。
このカミキリムシは、生産者が高齢化するなどして廃業した後、樹を切らずにそのままに放置しておくと、そこから発生し「ムシが増え、周囲のほ場に広がる」ので、「このムシの防除も欠かせない」ため、「年に1回は、両方の防除を兼ねて必ずスプラサイドを使うことになる」と内田さん。
(写真)
上:ヤノネカイガラムシ
下:フジコナカイガラムシ
◆手塩にかけた樹を守る必需の常備剤
果樹類は野菜類と異なり、苗を植えてから出荷できるまでに数年かかる。品種によって違いはあるが、例えばかごしま早生の場合3年くらいで実をつけるが味が悪く出荷できない。「出荷できるのは5年くらい」からだが、「品種の特性がでて、品質が安定するのは10年目くらい」からだという。
ゴマダラカミキリムシなどが発生し、防除が遅れると「やっと育ってきた樹そのものがダメになり、泣くに泣けない」ことになるので、常にほ場をよく見て、適切に防除しないと「取り返しのつかないことになる」。
そして、特定のカイガラムシだけではなく多くのカイガラムシ類やゴマダラカミキリムシなど幅広く効果があるスプラサイドは、カンキツ類生産者にとって必需の薬剤としてここでは使われている。
また、鹿児島ブランドの産地指定を受けたマンゴーのハウス栽培も行われているが、スプラサイドはマンゴーのチャノキイロアザミウマにも適用があり、使われている。カンキツ類とともにマンゴーを栽培している生産者が多いので、両方で使えるスプラサイドは農家にとっては使い勝手がよい薬剤だといえる。
内田センター長が、もう一つスプラサイドを推奨する理由としてあげたのは、効果はもちろんだが、カイガラムシ類の防除は、幹や枝に薬剤を散布するので「防除のためには相当な量を散布する必要がある」が、「新剤に比べて価格が安いのでコストを抑える」ことができることだ。
◆使い勝手がよいと多くの県内生産者が支持
この地域だけではなく、スプラサイドは鹿児島県全体でも、カンキツ類、茶(乳剤)やブドウやナシなどの落葉果樹(水和剤)のカイガラムシ類を中心とした防除、マンゴーのチャノキイロアザミウマ防除(乳剤)などに幅広く使われている。
とくにカンキツ類では、JAさつま日置でもみたように、果樹を守るためのカミキリムシとの同時防除ができ、効果も高く、しかも低コストということで、「使われるボリュームは毎年ほぼ変わらない」とJA鹿児島県経済連農産事業部肥料農薬課の清水洋之農薬係長はいう。
鹿児島県は茶の大産地でもあるが、カイガラムシは、クワシロカイガラムシを中心に、5月、7月、9月の3回発生する。スプラサイドは「有機リン系薬剤」ということで、4月上旬からの茶葉を摘む時期には「最近は、天敵や環境などへ配慮して非有機リン系薬剤が使われる」ことが多いという。しかし、防除適期が広く使いやすいので、「秋以降のカイガラムシ防除にはスプラサイドは欠かせない薬剤として使われている」。
ここまで見てきたように、カンキツ類や茶を中心に、落葉果樹など幅広い作物の害虫であるさまざまなカイガラムシ類に効果があるスプラサイドは文字通り「農家の常備薬」だといえる。
(写真)園地風景
◆新たな分野への拡大も視野に入れて
この薬剤の国内での権利をJA全農が取得し、クミアイ化学工業株式会社から製造・販売されることになり「残って良かった」というのが、内田センター長や清水係長の率直な意見だ。
清水係長は、経済連としてJAグループだけではなく、これまでJA以外から購入していた人も含めて改めて「鹿児島のカンキツ類や茶の生産にとってなくてはならない剤だということを農家の人たちに伝えていく」考えだ。
清水係長の案内でほ場などを取材している途中で、住宅やほ場の周囲に、防風垣として「イヌマキ」の樹が使われている光景によく出会った。
スプラサイドは、このイヌマキだけではなく樹木類(カイガラムシ類)や花き類・観葉植物(オンシツコナジラミ)など、幅広い作物に適用があるので、従来とは異なる「新たな分野への拡大」を含めて「多くの生産者に使ってもらえる環境づくりをするのが経済連のこれからの仕事」だと考えている。
(写真)
かごしま早生の樹
◆いい薬だからルールを守って長く使いたい
そしていままでJA以外から購入していた生産者と「JAとの関係ができるきっかけにすることができれば」とも考えている。そうなれば、系統農薬事業にとっても「嬉しいこと」だからと。
取材を終えて別れ際に内田センター長は「スプラサイドは俺ら生産者には効果もあって使い勝手もよく、いい薬だから、使用基準とかルールをきちんと守って、これからも長く使い続けていきたいね」と語ってくれた。
幅広くカイガラムシ類に効く薬剤でスプラサイドの右に出るものはないといえる。だから、45年もの長きにわたって、多くの生産者に使われてきた。
そうした生産者の期待に応えて、日本以外では製造・販売が中止されたが、日本ではこの10月からクミアイ化学工業株式会社が製造・販売をしていくことになった。
「生産現場で困っている防除課題に応え、日本の農家を元気にする」という系統農薬事業にとって、新しい歴史の1頁が開かれたといえるのではないだろうか。