特集

世界の食料・農業 最近の情勢

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大干ばつの米国と世界の食料の動向

・トウモロコシ、在庫量は約20日分
・来年の作柄はどうなる
・大豆と小麦も高騰
・エタノール政策の見直しは?

 半世紀ぶりともいわれる大干ばつに襲われた米国ではトウモロコシの生産量が大幅な減産となり市況価格は高騰、史上最高値を更新した。世界の食料は「過剰」時代から「不足」時代に入ったといわれるなか、主要農業国の生産動向が注視される。ここでは研究者や市場ウォッチャーなどのレポートからおもな国の最近の情勢を紹介していきたい。今回は米国の状況を整理してみる。

◆トウモロコシ、在庫量は約20日分

 米国農務省が10月11日に公表した需給動向見通しによると、来年8月末の米国トウモロコシの期末在庫率は5.6%となった。量にして約1500万t。この5.6%という数字は何を示すかといえば、21日分程度の在庫量ということになる(365日×5.6%)。
 伊藤忠グループ食料マネジメントサポートの高井通彰・リサーチ&ディベロップメント本部長は「来年は9月20日過ぎまでしか在庫がないということ。新穀の収穫は9月から。綱渡りの状態ということです」と話す。
 今年から来年にかけての世界のトウモロコシ生産量の予想値は8.4億t。米国はその32%とトップを占める。
 世界の輸出量は9000万tの見込みでその32%が米国。日本は米国から1300万tを輸入し世界の貿易量の15%以上を買う世界一のトウモロコシ輸入国だ(2011年度)。
 その米国のトウモロコシの生産量は今年、前年度より13.4%減の2億7200万tとなる見込み。6月の予想収穫量からは27%の大幅な下方修正となっている。
 こうした減産が予想されたことからシカゴ商品取引所の相場は6月から上昇し、8月には史上最高値の1ブッシェル(約2.54kg)8.31ドルをつけた。これがわが国の飼料価格やその他の食品の値上がりに大きな影響を与えている。

世界のとうもろこし生産量・輸出量 (資料:USDA「WASDE」October2012)◆来年の作柄はどうなる

 米国のトウモロコシは中西部の「コーンベルト地帯」で85%が生産されている。生産の上位はアイオワ、イリノイ、ネブラスカ、ミネソタ、インディアナの5州で約65%を占める。
 コーンベルト地帯の広さは、ほぼ東西1400km、南北700km。「北海道から九州までが2列、すっぽり入る広さ」(高橋氏)だ。
 この夏に現地を調査した(独)農畜産業振興機構の調査情報部国際調査グループの小林誠氏によると、ネブラスカ州では約65%の農地が灌漑されているが、これは例外的でその他の州では極度に乾燥したほ場が広がっていたという。干ばつのためミシシッピ川の水位も低下し内航船による穀物などの運搬にも支障を来している。
 9月以降も降雨は限定的でアイオワ州では土壌水分が十分なのは5%のみで、冬の降水、降雪が少ないと「来年度のトウモロコシ生産も危ぶまれる状況」だと分析している。高井氏によれば、10月に入ってから中西部では降雨が続いたというが、それが土壌水分をどの程度回復するかは不明だという。
 高井氏は「過去の経過をみると豊作の年は平年の9%程度の増産。それに対して不作のときは20%にもなる。マーケットはかりに来年の生産量が順調でも今年の不作分をどれだけ補えるのか、と考えている」と話す。

◆大豆と小麦も高騰

 トウモロコシだけではなく米国産大豆も大幅な減産が見込まれている。米国農務省の10月発表では前年度より7.5%減少の7800万tの見込みとなった。期末在庫率は4.4%見込みと低い。
 このため価格も上昇し大豆も9月はじめに1ブッシェル17.71ドルと史上最高値をつけた。さらに小麦も高騰している。トウモロコシの高騰によって小麦の飼料需要が高まるためで期末在庫率見込みは25.5%と大きく下がってはいないものの、7月に1ブッシェル9.43ドルと08年の高騰以来の高値をつけた。
 伊藤忠の高井氏は「昔は“七五三”と覚えておけ、と言われたもの。大豆7ドル、小麦5ドル、トウモロコシ3ドルが相場という意味でした」と話す。相場が様変わりしたということだ。
 ただ、大豆についてはブラジル、アルゼンチンといった南米での生産量が増えている。今年から来年にかけての大豆の世界生産量は2億6000万tの予想でブラジルは31%と米国の29%を抜いた。アルゼンチンも21%を占める。このため世界全体の来年の期末在庫率は22.2%と前年度よりわずかだが増える見込みだ。ただ、大豆は世界の輸出量9600万tのうち中国だけで約64%にも達する。中国の食料輸入の動向が大きく影響することになる。

◆エタノール政策の見直しは?

 トウモロコシの需給がひっ迫した大きな要因のひとつは周知のように米国のエタノール政策だ。バイオエタノールの使用量を法律で義務づけている。
 2011/12年の需要では飼料向けの44億ブッシェルに対しエタノール向けは50億ブッシェルとすでに逆転した。このため今回の高騰に対してFAO(国連食糧農業機関)が義務化の停止を求める声明を出したほか、米国内の畜産団体も見直しを求めた。
 大統領選挙が終わるまではどう対応するか米国政府は動かないと見られていたが事実そうだった。
 今後どんな動きが出るのか注目されるが、農畜産業振興機構の小林氏によるとコーンベルト地帯にとってエタノールは▽安定的なトウモロコシの受け皿、▽雇用創出、▽安価で栄養価の高いDDGS(トウモロコシの搾り滓)は畜産農家にとってもメリットがある、などと主張しているという。オバマ大統領も選挙戦で「われわれは農家や科学者が車やトラックを動かすための新たなバイオ燃料を生かせるような道筋を提供する」などと演説した。
 こうしたことから大統領、あるいは米国の環境保護庁は政策の見直しを行わないのではないかとみている。

(2012.11.09)