◆価格高騰で増産意欲
2012/13年度の世界のトウモロコシ生産量の見込みは8億4000万t。このうち中国は2億tで米国ついで2位、世界全体の生産量の24%を占める。
農林水産省がまとめている「海外食料需給レポート」によると、価格の上昇による作付け意欲の増加から収穫面積が増加したことと、7月の降雨もあって単収も上昇、2億tと史上最高の生産量になる。
(独)農畜産業振興機構調査情報部の河原壽氏によると、中国でも今年は干ばつが発生したが、発生地域が雲南省、貴州省など西南部でトウモロコシ主産地の黒竜江省、吉林省など東北部では限定的だった。
同氏によると、黒竜江省ではトウモロコシと大豆の1ム(約6.7a)あたりの収益差は2005年の60元から2010年には163元に拡大している。1元を12.5円として10aあたりに換算すると大豆よりトウモロコシのほうが3051円収益が高いという。このため同省では収益の高いトウモロコシへの転換が進んでいる。2009年にはトウモロコシ、大豆ともに同省内の作付け面積は401万haだったが、2010年にはトウモロコシが437万ha、大豆が355万haと逆転した(中国統計局・中国農業統計年鑑)。
◆工業用需要も拡大
河原氏の調査によれば、中国国内の2級トウモロコシ価格(規格:1リットル685g以上710g未満)は2000年から03年ごろまでは1t1100元前後だったが右肩上がりに上昇し11年には2300元以上になっている。
価格の上昇は需要の増加。畜産物の需要増で飼料用需要が拡大していることはすでに指摘されていることだが、たとえば豚用配合飼料は07年2411万tだったが11年には5050万tに増えている。豚肉の生産量も07年の4288万tから11年には5053万tに伸びている。
畜産物の需要増以外の食生活の変化もトウモロコシ価格の上昇の要因となっている。中国ではでん粉の生産量の95%がトウモロコシを原料に生産されているというが、一方で国内の砂糖価格が高騰、そのため代替甘味料原料としてのトウモロコシ需要も高まっているという。
また、トウモロコシ由来のエタノール生産は需給ひっ迫を背景に制限されているものの、白酒の原料としては伸びている。トウモロコシの工業用需要のうちアルコール生産は4割程度を占め、その7〜8割が白酒向け。白酒の生産量は05年では349万tだが、10年には891万tまで増えた。
◆小麦需要もひっ迫に
トウモロコシ価格に高騰でトウモロコシの収益に相当する価格が農産物の買い入れ価格に基準となり、野菜やてん菜などの価格上昇も招いているという。
一方では飼料価格の高騰は畜産業に打撃も与えている。河原氏の事例調査によると、河北省の酪農企業では牛乳販売価格1kg2.9元に対して飼料価格は同2.8元。収益が見込めないことから飼養頭数を減少させたり、零細な農家では廃業も進んでいる模様だという。
同時に飼料価格を削減しようと小麦の代替需要も拡大してきた。養豚企業への調査ではトウモロコシの配合割合を60%から30%に減らし、ゼロだった小麦を30%にしていたという。その判断はトウモロコシ価格が1t2500元に対して小麦は2300元だったため。しかし、こうした飼料用小麦の需要急増で今度は小麦の需給ひっ迫も懸念されている。
◆生産量は史上最高でも輸入は継続
農林水産省の海外食料需給レポートによるとトウモロコシの期末在庫量は約6000万tの見込みで期末在庫率は30%の見込みだ。しかし、2000年ごろには1億2000万t程度あった。その後、備蓄量は需要の伸びにともなって年々減少してきた。
そして2010年5月から米国からの輸入が開始されこの年は150万tを輸入した。その後は輸入量が増え、昨年は500万tを突破した。 今年は米国で干ばつが深刻化し価格が高騰しているが、それでも中国は輸入を行った。その理由はシカゴ相場が1ブッシェル8ドルと高騰しても、中国では夏に同10ドルもの流通価格となったため。米国産のほうが割安感があったということになる。
現在は米国の減産によって輸入見込み量は下方修正されたがそれでも200万tを輸入するとみられている。史上最高の生産量といっても需要を満たすためには輸入が必要になっている。
その輸入も米国だけではなくアルゼンチン、ブラジル、ウクライナからの手当を協議している。海外食料需給レポートは、10月に中国輸出入銀行がウクライナに対して農業資材などへの融資する見返りにトウモロコシで現物返済してもらう協定を結んだ模様だと紹介している。その量は年間300万t程度だという。
(表)(「海外食料需給レポート」農水省)