農文協ブックレット「脱原発の大義」
- 著者
- 農文協 編
- 発行所
- 農山漁村文化協会(農文協)
- 発行日
- 2012年5月10日
- 定価
- 840円(税込)
- 評者
- 森島 賢(元東大教授)
原発は地域経済を麻薬づけにする
◆麻薬の経済・財政構造
本書は、「まえがき」に書いているように、福島原発事故が顕わにした被害のまがまがしさと、復興の無責任体制と、それに加えて、原発が立地する地域を「麻薬の経済・財政構造」に陥れた不条理を、「満身の怒りを込めて」告発している。
16人の著者による合作で、それぞれが短い文章で、鋭い分析を加えている。そして、不条理への怒りを全編にみなぎらせている。
それらを全て論評する力は評者にはない。ここで取り上げたのは、そのうちの一部である「麻薬の経済・財政構造」である。
◆原発に犯されそうな地元
麻薬の構造を、もっとも分かりやすく示したのは、開沼博が指摘しているように、原発事故直後に行われた新潟県の県議選である。原発立地地域の柏崎・刈羽選挙区の選挙の結果は、2人の原発推進派が当選し、1人の脱原発派が落選した。脱原発票は29.9%で、3割に満たなかった。
原発立地地域には、いわゆる電源3法で、莫大なカネがバラまかれている。それは、経済発展に見放された地域にとって魅力だ。ここに政治が目をつけて、汚いカネをバラまいた。汚いというのは、使い道だけではない。このカネは合法的かつ自動的に国民に請求できる、という不条理をさす。このあたりは、以下のように岡田知弘が生き生きと描いている。
◆止められない麻薬
このアブクのようなカネは、最初は使い切れないほど多く、地元経済をマヒさせる。しかし、原発が完成すると打ち切られる。それに代わるのが固定資産税だが、これも原価償却で次第に少なくなる。
そこで、立地自治体はカネに困って、原発の増設を要求する。まさに原発は麻薬で、いちど吸うと止められなくなるという。もっと大量に吸いたくなる。こうして麻薬が拡大再生産され、それに汚染されて、心の奥深くまで蝕まれる。そして、子や孫までも、生命の危険に曝される、という。
◆地元で吸収する雇用は少ない
このカネのもう1つの特徴は、雇用を生む力が弱いことである。
原発は装置産業だから、少人数の高度な労働者だけでいい。だから、地元にカネを落として、地元経済を潤す力が弱い。街並みは、シャッターを下ろしたままで放置される。
また、装置産業だから、高い技術をもった労働者が高い賃金で雇用される。少数の若い優秀な人だけが吸い取られる。農家の子弟も吸い取られてしまう。
これは経常の運転をしているときで、度々ある点検の時には、不正規な労働が必要になる。これも受け皿は農家の人たちである。
こうした歪んだ形で、原発は地元の経済に、そして、農家に深く組み込まれるている、という。
◆怒りを込めた告発
このような状況の中で、しかし地元の多くの農業者は、原発のない地域を目指して再建に奮闘している。その姿を現地で見て、全編でさまざまに活写している。
再建のために何をなすべきか。政治を動かすしかないだろう。そのために何よりも大事なことは、いまの反原発運動を、政治を動かす力に組織化することだろう。その理論の追求に、もう少し紙数を費やしてほしかった。
それにしても、本書のように、原発の不条理を、怒りを込めて告発し続けねばならないだろう。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日