市場原理主義農政への回帰2013年1月15日
政府は、戸別所得補償制度を廃止するようだ。これまでの民主党農政の看板政策で、比較的高く評価されていたこの制度を廃止しようとしている。
林芳正農水相は、「現場が混乱しないことが大事」といっている。だから、当面は若干の手直しにとどめるだろう。
だが、2014年度からは農政の本格的な見直しをすると言っている。
14年度といっても、今年の8月ころには、予算の骨格を決めなければ間に合わない。それまでに、あと半年しか残っていない。7月の参議院選挙が終わってからの見直しでは遅すぎる。選挙公約で、農政についてどのような約束をするか、目を離せない。
政府は、戸別所得補償制度に代わる新しい法案の成立を目指している。看板を取り替えようというのである。看板だけではなく、中身も代えようとしている。
その詳細な内容は分からないが、昨年暮れの衆議院選挙での自民党の公約をみれば、大要は分かる。これは1年前に発表した自民党の農政ビジョンを下敷きにしているようだ。
◇
新しい所得補償制度は、多面的機能直接支払制度という名前になるようだ。その目的は「農地を農地として維持すること」だという。
これまでの戸別所得補償制度と比べると、制度の目的から食糧安保や自給率の向上が消えた。このような国境の重視は市場原理主義と相容れない、というのだろう。
また、補償の対象は、これまでは自給率の向上に貢献する全ての農家だったが、これも消えた。つまり、これまでは規模の大小にかかわらず、年齢の如何にかかわらず、自給率の向上に貢献する全ての農家を補償の対象にしていたが、これもなくなる。隣の農家は補償されるが、隣の農家は補償されない、というように別けられる。
このような選別政策は、市場原理主義の申し子といっていい。
◇
米について、やや詳しくみよう。米の所得補償は、固定部分と変動部分に分かれる。
これまでは、固定部分は、生産費を補償するものだった。そうして、再生産を保証し、制度の目的である自給率の向上をはかるものだった。これは、所得の底なし沼のような低下に対して、岩盤を作ったものだ、として高い評価を得ていた。
だが、新しい制度では、農地を農地として維持することが目的だから、何を作ってもいいことになる。補償の基準を何にするかもあいまいになるだろう。またしても、所得が底なし沼のように、ずるずると下がるのではないか、という強い懸念がある。
所得を下げて、弱者を切り捨てることは、市場原理主義の得意技である。
◇
変動部分は、米価の短期的な変動に対処するものである。固定部分の補償金額は、文字どおり固定されているので、米価が短期的に下がると、短期的とはいえ生産費が補償できなくなる。それへの対策である。
新しい制度では、この部分を保険にするようだ。自助の考えを取り入れる、というのである。これは、米価が下がって痛めつけられた弱者に対して、自己責任を押し付けるものである。
弱者への自己責任の強要は、市場原理主義の特徴である。そして、やがては保険会社の新しいお狩場にするのだろう。アメリカは、日本の保険市場に進出したいので、以前から異常な関心をもっている。
◇
こうした市場原理主義農政と決別したのが3年半前の民主党だった。その結果、念願の政権交代を果たした。そして、自民党は野党に転落した。その反省が見られない。
政権を奪還した自民党は、性懲りもなく市場原理主義農政に回帰しようとしている。これでは、7月の参議院選挙で勝つどころか、政権は長続きしないだろう。
政府と自民党は、国民の中にある市場原理主義に対する強い怨嗟の声に、耳を傾けねばならない。
(前回 2013年-激動の予感)
(前々回 中国の大連の米は5kgで338円)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(130)-改正食料・農業・農村基本法(16)-2025年2月22日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(47)【防除学習帖】第286回2025年2月22日
-
農薬の正しい使い方(20)【今さら聞けない営農情報】第286回2025年2月22日
-
全76レシピ『JA全農さんと考えた 地味弁』宝島社から25日発売2025年2月21日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付)2025年2月21日
-
農林中金 新理事長に北林氏 4月1日新体制2025年2月21日
-
大分いちご果実品評会・即売会開催 大分県いちご販売強化対策協議会2025年2月21日
-
大分県内の大型量販店で「甘太くんロードショー」開催 JAおおいた2025年2月21日
-
JAいわて平泉産「いちごフェア」を開催 みのるダイニング2025年2月21日
-
JA新いわて産「寒じめほうれんそう」予約受付中 JAタウン「いわて純情セレクト」2025年2月21日
-
「あきたフレッシュ大使」募集中! あきた園芸戦略対策協議会2025年2月21日
-
「eat AKITA プロジェクト」キックオフイベントを開催 JA全農あきた2025年2月21日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付、6月26日付)2025年2月21日
-
農業の構造改革に貢献できる組織に 江藤農相が農中に期待2025年2月21日
-
米の過去最高値 目詰まりの証左 米自体は間違いなくある 江藤農相2025年2月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】有明海漁業の危機~既存漁家の排除ありき2025年2月21日
-
村・町に続く中小都市そして大都市の過疎(?)化【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第329回2025年2月21日
-
(423)訪日外国人の行動とコメ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年2月21日
-
【次期酪肉近論議】畜産部会、飼料自給へ 課題噴出戸数減で経営安定対策も不十分2025年2月21日
-
「消えた米21万トン」どこに フリマへの出品も物議 備蓄米放出で米価は2025年2月21日