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「攻めの農政」に期待できぬ2013年2月4日

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【森島 賢】

 先週、農水省が「攻めの農林水産業推進本部」を始動させた。農水省を挙げて、この内閣の農政の骨格を作る、というのだろう。
 発表された設置の趣旨に、その輪郭が示されている(注:資料は本文の下)。そこには、2つの柱がある。国内制度の問題では、その基本になる戸別所得補償制度の見直しであり、貿易問題では「攻めの農政」の本陣ともいえる農産物輸出である。
 ここには、食糧自給率を上げよう、つまり、食糧安保という崇高な考えはない。日本の農産物は品質がいいし安全だから、もっと輸出に力を注いで稼ごう、というだけである。

 「攻めの農政」を言い出したのは、20年前のガット交渉の直後だった。それまで農産物輸入でさんざん攻撃されて痛めつけられ、気分が滅入っていたので、これからは、気分を一新し、輸出で攻撃しよう、というものだった。「攻めは最大の防御なり」というわけだろう。
 これは、松岡利勝議員の発想だった。同議員は、その後、2006年に農水相になって、「攻めの農政」を農政の柱に据えた。
 それ以後、農産物の輸出はどうなったか。

2000年から2011年の農産物輸出額 上の図は、2000年以後の農産物の輸出額を示したものである。
 最近の10年間で30%程度増えた、といえないこともない。だが、それは、歴代の政府が懸命に努力した結果である。しかし、最近は頭打ちになった。農水省は、今後10年で倍増するという意気込みだが、うまくいくだろうか。放射能汚染の風評被害が収まるか、という懸念もある。

 農産物の輸出振興を全面的に否定するわけではないが、多くの重大な問題がある。
 それは、これを農政の主要な柱にしていることである。農業振興の切り札にしよう、としていることである。
 農業振興といっても、輸出農産物の多くは、「りんご」や「緑茶」や「ながいも」などで、食糧安保には関わりがない。
 米を輸出すればいい、という論者がいる。だが、米の輸出金額は6.8億円で農産物輸出金額全体の2652億円の僅か0.26%でしかない。米の国内生産量の856万6000トンのうちの0.025%の2129トンに過ぎない。これが、長年の「攻めの農政」の、みすぼらしい成果である。
 ここには、農業振興の王道である食糧安保の考えがない。いまのカロリー自給率が39%しかなく、穀物自給率が27%しかないことに対する危機感がない。仮に穀物自給率を100%にすれば、農業を振興して3.7倍の規模に拡大しなければならない、50%でも1.9倍である。こうすることこそが農業振興の王道である。だが、こうした考えは全くない。

 「攻めの農政」は、市場競争で勝つことに至上の価値をおく考えである。市場競争での敗者は市場から退場せよという。農業をやめろ、というのである。やめてどうするか。そんなことは考えていない。
 これに対峙するのが、協同組合としての農協の考えで、「万人は一人のために…」という考えである。一人でも犠牲者を出してはならない。
 また、「攻めの農政」は、闘争の考えである。だが、協同組合は、闘争を好まない。全員が納得するまで話し合いを続けて結論をだす。
 その一方で、「設置の趣旨」の前文では、「現場の実態を重視しながら…」といっている。これを空文にしてはならない。

 勝者もやがては敗者になるだろう。その時どうなるか。
 それは、近い将来に予想される、地球規模での食糧危機の時である。その時、食糧自給ができないなら、人としての誇りを捨て、外国に膝を屈して食糧を乞うしかない。つまり、乞食である。
 農政は、この事態を常に想定しておかねばならない。
 新しい農政は、前の政権と同じように、食糧安保を基本に据えておくべきである。そして、食糧自給率を向上するための農業振興を、農政の揺るがぬ大黒柱にして据え続けねばならない。つまり、「攻めの農政」ではなく、米粉米や飼料米の大増産のための農政である。

注:「攻めの農林水産業推進本部の設置について」は ココ

(前回 農家兼業は悪か

(前々回 アベノミクスの成否の鍵は財界にある

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