TPP問題 誰にとっての国益か2013年3月4日
安倍晋三首相は、先週、国会の施政方針演説で、TPPに関連して「国益にかなう経済連携を進める」といった。TPP参加に前のめりの姿勢を示したのである。
いったい国益とは何か。誰にとっての国益か。それが問題である。1%の国民にとっての利益か、99%の国民にとっての利益か。
誰にとっての利益か、を考えることは、貿易問題だけでなく、経済問題を考えるときの、さらに社会問題を考えるときの、最も基本的な視点である。
国益というと、国民全体が等しく得られる利益、と思いがちだが、今の社会のように、経済と道徳が一致していない社会ではそうならない。
以前に、前原誠司元外相が、TPPは1.5%の第1次産業には不利益になるが、それ以外の98.5%の産業の利益になる、という趣旨の発言をしたことがある。そして大反発を受けた。これは間違いだし、最も基本的な視点を忘れている。産業に主権があるのではなく、国民に主権があることが分かっていない。
仮に98.5%の産業の利益になるとしても、そのうちの誰の利益になるのか。それが問題である。その産業に携わる人たちが全て等しく利益を受けるわけではない。そのうちの、ごく一部の1%の人は目先の僅かな利益を受けるかも知れない。だが、大部分の99%の人たちは不利益を受ける。
(上図の出所はコチラを参照)
上の図は、アメリカ社会の現状を如実に示している。上位1%の人が国全体の所得の23.5%を得ている。格差社会の象徴的な図で、1年半前にウォール街で行われた格差に対する抗議運動で掲げられた。いまや、84年前の大恐慌以後、最もひどい格差の拡大である。
これがアメリカ民主主義の現在の到達点である。カネ持ちがアメリカ社会をほしいままに取り仕切っている。カネに主権があるのではなく、国民に主権があることを忘れたようだ。
他人事ではない。日本も価値観を共有するというアメリカが主導しているTPPに加盟して、アメリカ社会を見習おうとしている。そのために持ち出したのが「国益」である。
◇
TPPで全ての国民が潤う、という考えに誘導するために使われているのが「国益」である。1%の人が利益を得れば、その利益が99%の人たちに滴り落ちる、というわけである。
だが、事実はそうなっていない。つまり、ウソである。1%の人が牛耳る企業にカネがないわけではない。史上空前の大量のカネを蓄えている。だが、99%の人たちの上に滴り落ちてこない。日本国内に落とすのではなく、TPP加盟を待って、賃金が安いアジアの国々に落とそう、というのだろう。1%の人は、その機会を狙っている。
◇
この人たちは、次のように考えているだろう。
食糧の安全保障など、どうでもいい。他人のことは知らないが、まさか自分のようなカネ持ちが食糧の調達に困ることはないだろう。
安全な食糧はカネさえ出せば買える。
国民皆保健など、どうでもいい。それよりも、カネで高度な医療を買いやすくするほうがいい。
国家主権よりも、私利私欲のほうが大事だ。
◇
こうした不道徳な人に追従する政治家が、便利に使っているのが「国益」である。誰の利益か、が分からなくなるように覆い隠している。
国益とは、あらためて言えば、99%の人たちの利益のことである。それが民主主義国の国益である。そして、TPPは国益にならない。
そのことを、農協をはじめ多くの人たちが白日の下に晒している。それを見向きもしないで、首相や元外相はTPP参加に前のめりの姿勢を続けている。
(前回 TPP参加へ大きく踏み出した安倍首相)
(前々回 改訂版「TPP参加の即時撤回を求める会」の会員と未会員)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(133)-改正食料・農業・農村基本法(19)-2025年3月15日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(50)【防除学習帖】第289回2025年3月15日
-
農薬の正しい使い方(23)【今さら聞けない営農情報】第289回2025年3月15日
-
イタリア旅行の穴場【イタリア通信】2025年3月15日
-
政府備蓄米 初回9割落札 60kg2万1217円 3月末にも店頭へ2025年3月14日
-
【人事異動】JA全共連(4月1日付)2025年3月14日
-
【人事異動】JA全中(4月1日付)2025年3月14日
-
(426)「豆腐バー」の教訓【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月14日
-
実需者と結びつきある飼料用米 支援継続を 日本農業法人協会2025年3月14日
-
オホーツクの恵み 完熟カボチャからフレークとパウダー JAサロマ2025年3月14日
-
日本一の産地の玉ねぎがせんべいに 産地の想い届ける一品 JAきたみらい(北海道)2025年3月14日
-
みおしずくがクッキーに 日野菜漬はふりかけに JAグリーン近江(滋賀県)2025年3月14日
-
地域の歴史受け継ぎ名峰・富士の恵み味わう かがり火大月みそ JAクレイン(山梨県)2025年3月14日
-
【人事異動】JA全厚連(4月1日付)2025年3月14日
-
高まるバイオスティミュラント普及への期待 生産者への広報活動を強化 日本バイオスティミュラント協議会2025年3月14日
-
岩手県大船渡市大規模火災での共済金手続きを簡素化 JA共済連2025年3月14日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第107回2025年3月14日
-
3月14日は「蚕糸の日」 大日本蚕糸会2025年3月14日
-
種苗・農産物輸出の拡大に向けた植物検疫のボトルネック解消「農研植物病院」へ出資 アグリビジネス投資育成2025年3月14日
-
【役員人事】農中信託銀行(4月1日付)2025年3月14日