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原発は麻薬2013年3月11日

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【森島 賢】

 3.11がまたやって来た。この日をわれわれは決して忘れてはならぬ。丸2年が過ぎたのに、震災と原発被害からの復興は、遅々として進んでいない。福島県人だけでも、まだ15万人以上の人たちが避難生活を続けている。
 こうした状況に目をつむって安倍晋三首相は、原発再稼働や原発新設に前のめりの姿勢を崩していない。TPPへの前のめりとともに国民の怨嗟の的になっている。
 首相は、原発に前のめりであってはならぬ。原発は麻薬である。ならぬことはならぬ。

 原発の麻薬性を、岡田知弘教授などが生き生きと描いている(農文協『脱原発の大義』)。教授は、原発は地域と人間性を破壊する不道徳と反倫理の施設だ、という。
 ここには、原発でしか潤うことのできぬ立地地域の疲弊した経済がある。だから、再稼働や新設を望む地域は少なくない。
 だが、原発は麻薬である。いちど吸うと止められないし、一度は吸ってみたい、と考えるようだ。しかし、その結果、一時的に地元は潤うが、その後ますます疲弊の度を深める。

 まず、土地買収の時から立地地域へのカネという名前の麻薬がバラまかれる。原発を実際に見てこようということで、視察旅行に招待する。新幹線のグリーン車や飛行機での豪華旅行である。生まれて初めて乗った人も多かったろう。
 これらのカネは、全て電力料金や税金でまかなわれる仕組みになっている。

 原発の建設が決まると、ただちに地元の自治体に莫大な交付金が支払われる。自治体には使い切れないほどの大量のカネである。そのカネで観光施設などのハコモノを作る。はじめのうちは、珍しいから利用者も多い。そこで働く雇用も多く生まれる。しかし、やがて飽きられて利用者が減り、廃墟になってしまう。その結果、雇用量を減らすことになる。

 原発の建設が始まると、地元雇用が増え、経済が勢いづく。多くの農家の人たちがそこで働くようになり、収入も増えるし、村は活気づく。
 だが、それは一時的な活気で、建設が終わればそれでおしまいになる。雇用もまた元にもどって、働く場を探すことになる。

 原発が完成すると、いよいよ運転が始まる。装置産業だから、それほど多くの雇用はいらない。だから、地元にカネを落として、地元経済を潤す力は弱い。街並みは、シャッターを下ろしたままで放置される。
 雇用吸収力は大きくないが、高度な技術労働なので賃金は高い。このため、地元の優秀な若者が吸い取られる。農家の子弟も吸い取られてしまう。
 時々点検のために多くの雇用が必要になるが、これは一時的な臨時雇用である。この受け皿は農家の人たちである。
 こうした歪んだ形で、原発は地元の経済に、そして、農家に深く組み込まれる。

 一方、自治体の財政はどうか。
 当初の交付金で建てたハコモノは、一見豪華にみえる。だから、初めのうちは利用者が多く、利用収入は多い。だが、やがて利用者が少なくなり、利用収入が減る。
 交付金は一回限りで、いつまでも続くものではない。それでもハコモノの維持費は以前と同じようにかかる。借金の返済も重荷になる。

 原発が出来上がれば、当初の交付金がなくなる。その替りに固定資産税が入ってくる。だが、これも原価償却が進むにつれて次第に少なくなり、税収も減る。
 税収は先細りになり、赤字だけが増える。

 そこで思いつくのが、原発の増設である。夢よもう一度というわけである。ワラにでもすがりたい気持ちかもしれない。
 まさに原発は麻薬で、いちど吸うと止められなくなる。もっと大量に吸いたくなる。こうして麻薬が拡大再生産され、それに汚染されて、心の奥深くまで蝕まれる。
 その上、原発から出る廃棄物には、最終処理の方法がない。だから、子や孫までも、生命の危険に曝される。

 この仕組みを作ったのが、電力会社であり、政治家である。多くの学者もこれに関わった。そして、3.11以後もこの仕組みは生き続けている。原発はクリーンだとか、安全だとか、安いとか、電力が足りないとか、ウソ八百を並べ立てて脅してきた。
 この仕組みを断ち切るために何をなすべきか。政治を動かすしかない。首相の前のめりの姿勢を糺すしかない。そのために何よりも大事なことは、いまの反原発運動を、政治を動かす力に組織化することだろう。
 その先頭に立つべき組織が政党だが、反原発派は四分五裂の状態である。労組や生協は、特にその中央組織は傍観しているだけだ。
 こうした情況の中で、農協が使命感に燃えて頑張っている。これからも頑張り続けるだろう。


(前回 TPP問題 誰にとっての国益か

(前々回 TPP参加へ大きく踏み出した安倍首相

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