安倍首相がTPP参加を決めた無理な理由2013年3月18日
安倍晋三首相が、TPP交渉に参加することにした。太平洋を囲む巨大な経済圏を作るのだという。気宇壮大といってもいい。誇大妄想といってもいい。
RCEPやFTAAPを目ざした経済連携のルールを作るのだというが、それは無理だろう。経済思想が違う。
TPPは競争を経済連携の原理にしている。他の2つは、協同を原理にしている。この2つは互いに相容れない。だから、中国やインドはTPPに加盟しようとしない。
TPPはアメリカが盟主で、アメリカの価値観をアジアに広め、アジアに覇権を打ち立てようとしている。だが、他の2つは、それを認めない。
日本は、アメリカ側につこう、と首相はいう。それでは、アジアの国々からは白い目でみられる。しかも農業を犠牲にして。
アジアの経済発展に協力しよう、というのだが、発展の成果を横取りされるのでは、と疑いの目で見られる。
農業を犠牲にしてでもいいからTPPに加盟しよう、とする首相の理由は何か。ここには理由がない。
農業が犠牲になることは、首相も認めている。こんどの政府の公式試算では、TPPに加盟すると、林業と水産業を含めて生産額が3兆円も減るという。全農林水産物の生産額は10兆円だから、それが7兆円に減る、という試算である。もっと減ると考えられるが、ここでは深入りしない。
◇
これだけの犠牲を払って、どうしようと言うのか。農業は守るだけでなく、TPPに加盟して、農産物を輸出しよう、という。いわゆる攻めの農政への転換である。TPPはピンチではなく、むしろ大きなチャンスだという。だが、具体性のない空論である。
TPPに加盟すると農産物を輸出し易くなるのか。ここのところの論理がない。TPPに加盟すれば、関税がゼロになるから輸出し易くなる、というのなら分からなくもない。だが、輸出している農業者から、そうした不満は聞かれないし、そうした事実はない。
◇
首相は、日本の農を守る、といっているが。どのようにして守るのか、は言わない。言えないのだろう。
犠牲になる分は直接農家に補償すればいい、と主張する人が首相の周辺にいる。だが、毎年3兆円も補償する覚悟があるのか疑わしい。たとい覚悟があるとしても、財界などが容認するとは、とうてい考えられない。
その上、このような多額の補償は、市場原理を全く無視することになる。農業者は市場の情報を見て生産するのではなく、政治の顔色を見ながら生産することになる。これは、決していいことではない。
◇
3兆円もの犠牲を払って何を得ようとしているのか。国民皆保健を捨て、食の安全を捨て、国土を捨て、さらにISDで国家主権さえも捨てて何を得ようとしているのか。
首相の日頃の言動からみて、国家安全保障をアメリカから得ようとしているのではないか。農業を犠牲にし、食糧安全保障を犠牲にするなどして、国家安全保障を得ようとしているのではないか。
それを隠すために、農業は成長産業だとか、大きなチャンスだとか、苦しまぎれに口走っている。
国家安全保障は、どうでもいいと言うのではない。近隣のアジアの国々から白い目でみられる中で、日本の国家安全保障はない、と言いたい。
◇
農業を成長産業にするには、いまの約40%の食糧自給率の向上を農政の基本に据えることである。これを80%にすれば、農業は2倍に成長する。
TPPに加盟するのではなく、この政策に真正面から取り組むべきである。
TPP反対運動は、これから本格化する。当面は、7月の参議院選挙だ。ここでTPP反対の議員を1人でも多く国会に送り込まねばならない。
(前回 原発は麻薬)
(前々回 TPP問題 誰にとっての国益か)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
新春特別講演会② 地域のつながり大切に 全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長 湯浅誠さん2025年2月6日
-
米の生産目安「各県で需要動向分析を」山野JA全中会長2025年2月6日
-
【特殊報】マンゴーにリュウガンズキンヨコバイ 農作物で初めて発生を確認 沖縄県2025年2月6日
-
JAいるま野DX事例公開! 受注業務の手入力をAI-OCRに切り換え「38人→4人」の省人化を実現 PFU2025年2月6日
-
飼料用米 地域実態ふまえ政策位置づけを 食農審企画部会2025年2月6日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】米価高騰の議論で見落とされていること2025年2月6日
-
シャインマスカット栽培の課題解決へ「ハウスぶどう防除研究会」岡山で開催 JA全農2025年2月6日
-
かんきつ栽培の課題解決へ「ハウスみかん防除研究会」岡山で開催 JA全農2025年2月6日
-
フルーツ王国ふくしま「ゆうやけベリー・県産いちご」収穫フェア JA東西しらかわ直売所で開催2025年2月6日
-
丸全昭和運輸、シンジェンタジャパン及び三井化学クロップ&ライフソリューションと共同配送に向けた検討を開始2025年2月6日
-
特定外来生物ナガエツルノゲイトウ 水稲移植栽培での除草剤による防除技術を開発2025年2月6日
-
外食市場調査12月度市場規模は3563億円 コロナ禍前比88.2%で2か月連続後退2025年2月6日
-
佐野プレミアム・アウトレットで栃木県産のいちごフェア開催 いちご大使のコリラックマも登場 JA全農とちぎ2025年2月6日
-
豆腐づくりの原点に返った「職人(クラフト)豆腐」新発売 温豆乳を使用する新製法開発 アサヒコ2025年2月6日
-
岐阜、福島、静岡のこだわり"いちご"でパフェやデザート 「資生堂パーラー銀座本店サロン・ド・カフェ」の2月限定メニュー2025年2月6日
-
鳥インフル 米サウスダコタ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年2月6日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年2月6日
-
トラクタ、コンバイン、乗用全自動野菜移植機を新発売 クボタ2025年2月6日
-
農業・観光・教育の機能備えた再エネ発電所建設へ クラファン第2期開始 生活クラブ2025年2月6日
-
日本最大級「パンのフェス」関西初上陸 大阪で3月開催 出店第1弾発表2025年2月6日