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原発鳴動ネズミ一匹2013年3月25日

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【森島 賢】

 表題は、古い言葉の「泰山鳴動ネズミ一匹」をもじったものだが、分かってもらえただろうか。
 先日、福島原発の事故で大騒ぎをしたが、その原因は一匹のネズミが配電盤を壊したことだった。ご粗末というしかない。
 だが、ご粗末だからといって、笑って見逃すことはできない。それほど大きな問題を含んでいる。まかり間違えば、またしても大量の放射線を、地球上に撒き散らす一大事になっただろう。
 それだけではない。こんどの事件は、原発の周りに、科学者を装って、科学を盲信する似非科学者がいることを、あらためて露呈した。
 似非科学者がいるのは、原発の周りだけではない。食品の安全問題などの周りにも大勢いる。
 ネズミが神の使いになり、わが身を犠牲にして警告するために、福島へ来たのかもしれない。

 科学者は、たえず自分は誤っているのではないか、という疑いをもっていなければならない。そうでなければ科学者とはいえない。
 安全問題にかかわる科学者は、殊にそうだ。まして原発などの、未だに完成していない技術にかかわる科学者は、常に心にとめておかねばならない。

 未完成の技術というのは、原発から出てくる廃棄物の処理方法が、未だに無いことを指している。
 原発に事故がなくて、正常に稼働していても放射性廃棄物は必ず出る。それから放射能を取り除く技術は、未だにない。数百年どころか数千年後、数万年後になっても完成できない技術かもしれない。
 とりあえず、濃縮して地下深くに埋めておくしかない、というのだが、地下で数万年もの間、放射能を出し続ける。数万年の間には、地殻変動が起きて、地上に出てくるかもしれない。ちなみに、富士山は1万5千年前には、しばらくの間、地下から大量の溶岩を出し続けていた。
 その上、いったん人間が放射能を浴びたら、完治する技術もない。27年前のチェルノブイリ原発事故で、未だに多くの人たちが苦しんでいる。

 一匹のネズミがどうして配電盤の中に入ったのか。管理にずさんさがあったのではないか。これは深く反省すべきである。
 それは勿論だが、ここで指摘したいのは、そのことではない。原発の安全性は科学的に証明されている、という似非科学者の傲慢である。
 食品安全の問題でも、似非科学者が同じことをいっている。遺伝子組み換え食品の安全性は科学的に証明されている、と。そこで思考を停止し、その先へ進もうとしない。そうして、科学的認識の進歩を阻害している。
 こんどの事故で、いわゆる科学的証明の危うさが暴露された。

 科学的証明とは、いつも、現在の科学では、という但し書きがつくのである。
 だが、自然界には、現在の科学では分からない部分がいくつもある。未だ科学の及ばない、人智を超えた領域があるのである。そうした領域に、畏れおののく心がなければ科学者ではない。人命にかかわるばあいはなおさらである。
 筆者は科学を否定しているのでもないし、不可知論をいっているのでもない。科学者の認識論をいっているのである。似非科学者には、それがない。

 原発は安全だという陰に、こんどの事故があった。今後もこうした事故があるかもしれない。そして大事に到るかもしれない。管理の不注意ですまされることではない。
 こうした事故は今後も起こることを考えておかねばならない。自然は人間の注意を、しばしばくぐり抜ける。そうした認識論に立っていなければならない。そうしてこそ科学者である。
 原発のばあい、不注意は取り返しのつかない結果を生む。多く国民の生命を奪うような大惨事にもなる。何世代にもわたって健康被害をもたらす。
 だからこそ多くの国民は、原発に反対なのである。

 こうした中で、政府は原発を再稼働しようとしている。また、原発に代わるエネルギーの開発を図る、と口先では言いながら、実際には、そのための基盤になる発送電分離の政策をやめようとしている。
 いったい政府は何を考えているのか。原発はクリーンだ、という間違った考えにとりつかれているのだろうか。原発は安い、という間違った考えに固執しているのだろうか。そうして、国民を犠牲にし、目先の私利私欲しか見ようとしない財界の言いなりになるのだろうか。
 野党の中にも、似非科学者に惑わされている政治家は少なくない。
 7月の参議院選挙で、国民の厳格な審判を下そう。


(前回 安倍首相がTPP参加を決めた無理な理由

(前々回 原発は麻薬

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