農業・農村所得倍増計画の落とし穴2013年7月1日
政府と自民党が、農業・農村の所得倍増計画を発表した。今後10年で、所得を2倍に増やすのだという。
いったい、誰の所得を2倍に増やすのか。
農業者は農業とは違う。農村とも違う。
この政策が実施されれば、全ての農業者の所得が2倍になる、と期待する人がいるかもしれない。だが、それは違う。農業者の所得を2倍にする、とは言っていないし、まして、「全ての」農業者の所得を2倍にする、とも言っていない。ここに、この政策の落とし穴がある。
参議院選挙を間近にひかえ、この誤解を振り撒こうとしているのなら、それは、悪質な選挙公約である。眉に唾をつけて、よく見なければならない。
アベノミクスの第3の矢といわれる成長戦略の中心の政策は、規制改革だという。そのなかでも、とくに重要なのは、農業分野での規制改革だという。つまり、株式会社に農地の所有権をみとめ、農業を成長産業にして、農業所得を2倍にする、というのだろう。
万一、2倍にできたとして、増えた分の所得は誰のものになるのか。それは、農業者の所得ではなく、会社の所得になって、結局は都市部にある本社に吸い上げられるだけで、農業者に滴り落ちることはないだろう。もしも、本社が海外にあるなら、この所得は海外へ流出してしまう。
「滴り落ちる」理論に、大多数の国民は、こりごりしている。
この会社は、高齢者などを雇うことはないだろう。高齢者の所得は増えるどころか減るしかない。
もちろん、兼業者は農業所得が、そっくり無くなってしまう。
◇
農業所得が2倍になるということは、農業生産額が2倍になることである。いったい誰が2倍の農産物を買うのか。
ごく一部の金持ちでさえ、2倍の農産物を買うことはないだろう。賃金が下がっている大多数の人たちが買うことを想定しているのなら、それは当てが外れるだろう。その前に賃金を上げねばならない。
海外に輸出して売ることを考えているようだが、それだけでは2倍には、とうていならない。
農産物を加工して売るというが、いうまでもなく農産物加工業は農業ではない。加工業である。
◇
加工業でもいい、農村の所得を増やせばいい、という考えが農村所得の倍増計画なのだろう。
この考えはいい。だが、具体的にはそうではない。
たとえば、農村に医療特区を作って、営利目的の病院を作ることを想定しているようだ。国民保険だけを使って治療したい、という大多数の国民を対象にして治療するのではなく、ごく一部の高所得者だけを治療する病院である。医療格差の極致といっていい。
だから、日本医師会は大反対している。
◇
農業・農村の所得倍増計画は、いったい誰の所得を倍増するのか、誰を幸せにするのか、という視点でみなければならない。この点があいまいになっている。
99%の人たちの所得を倍増するのか、それとも、1%の人の所得を倍増するのか。この点を注視しよう。ことに、高齢者や兼業者の所得がどうなるか。
この点で、民主党が政権交代したときの選挙公約は明解だった。「農業者」戸別所得補償制度の創設を公約し、規模の大小にかかわらず、年齢の如何にかかわらず、全ての農業者を補償制度の対象にして、愚直なほど誠実に実行した。
1%の人だけの所得を倍増する、という一人勝ちを、農村は受け入れないのである。
「一人は万人のために、万人は一人のために」という協同組合の崇高な理念は、それを許さない。
(前回 日本型稲作構造の展望)
(前々回 アベノミクスは小農切捨て)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 高知県2024年7月16日
-
【注意報】イネカメムシ 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2024年7月16日
-
30年目を迎えたパルシステムの予約登録米【熊野孝文・米マーケット情報】2024年7月16日
-
JA全農、ジェトロ、JFOODOが連携協定 日本産農畜産物の輸出拡大を推進2024年7月16日
-
「雨にも負けず塩にも負けず」環境変動に強いイネを開発 島根大学・赤間一仁教授インタビュー2024年7月16日
-
藤原紀香がMC 新番組「紀香とゆる飲み」YouTubeで配信開始 JAタウン2024年7月16日
-
身の回りの国産大豆商品に注目「国産大豆商品発見コンクール」開催 JA全農2024年7月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」鹿児島県で黒酢料理を堪能 JAタウン2024年7月16日
-
【役員人事】ジェイエイフーズおおいた(6月25日付)2024年7月16日
-
【人事異動】ジェイエイフーズおおいた(4月1日付)2024年7月16日
-
日清食品とJA全農「サプライチェーンイノベーション大賞」で優秀賞2024年7月16日
-
自然派Style ミルクの味わいがひろがる「にくきゅうアイスバー」新登場 コープ自然派2024年7月16日
-
熊本県にコメリパワー「山鹿店」28日に新規開店2024年7月16日
-
「いわて農業未来プロジェクト」岩手県産ブランドキャベツ「いわて春みどり」を支援開始2024年7月16日
-
北海道で農業×アルバイト×観光「農WORK(ノウワク)トリップ」開設2024年7月16日
-
水田用除草ロボット「SV01-2025」受注開始 ソルトフラッツ2024年7月16日
-
元気な地域づくりを目指す団体を資金面で応援 助成総額400万円 パルシステム神奈川2024年7月16日
-
環境と未来を学べる体験型イベント 小平と池袋で開催 生活クラブ2024年7月16日
-
ポーランドからの家きん肉等の一時輸入停止を解除 農水省2024年7月16日
-
JAタウンのショップ「ホクレン」北海道産メロンが当たる「野菜BOX」発売2024年7月16日