「滴り落ちる」理論の破綻2013年7月8日
企業に利益が溜まれば、やがて労働者の上に滴り落ちて、労働者も潤う、という理論がある。アベノミクスも、この理論を利用している。
まず始めに、企業に利益を溜めることが大事だ、それが滴り落ちるまで、しばらくの間、労働者は我慢せよ、という理論である。企業が上で、労働者は下、という哲学を持った理論家の理論でもある。
もっともらしい理論に聞こえるが、いつまで我慢すればいいのか。これまでの事実をみてみよう。
上の図は、最近16年間の賃金と景気の動向を示したものである。
この期間には、好景気もあり、不景気もあった。だが、賃金は一貫して下がった。
ことに2002年2月から2009年3月までは、いざなみ景気と囃された好景気の期間だった。だが、この期間も賃金は下がり続けた。労働者は、会社の利益が滴り落ちるのを待っていたが、いつまで待っても、ついに落ちてこなかった。
2009年初頭から始まるリーマン・ショックからの回復過程でも、賃金は回復しなかった。それどころか下がり続けた。
このように、この理論は事実に反している。つまり破綻している。
◇
この理論は、「無い袖は振れない」という、誰もが納得する論理に基づいているようにみえる。会社に利益が溜まらなければ、賃金は上げられない、というのである。
だが、論理は逆だった。労賃の引き下げで、ようやく景気を回復し、維持したのである。そして、不況時には賃金を一気に引き下げた。
つまり、この理論は、会社に利益を溜めこむための理論である。そのために、賃金の引き下げを労働者に納得させ、押し付けるための理論である。
◇
この破綻した理論が、また復活しようとしている。今後、なにが待っているか。
消費増税とインフレによる、実質的な賃金引下げが待っている。さらにTPPに加盟すれば、労働市場の競争の激化によって、賃金がさらに引下げられる。
99%の国民が、これを阻止できるか。
◇
「滴り落ちる」理論は、古くからある理論だ。
60年前に、農協や会社などで働く人たちや学生たちの間で、空腹をかかえながら、こうした理論家を揶揄し、抗議をこめて歌われた歌の一節を紹介しよう。
♪♪ 働け! 我慢せい! 死んだらあの世で食べられる ♪♪
「滴り落ちる」理論家は、滴り落ちるのを、死ぬまで待て、というのだろう。どんな約束をしても、死んだあとは反故になる。
(前回 農業・農村所得倍増計画の落とし穴)
(前々回 日本型稲作構造の展望)
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