エジプトのクーデターで見えた食糧問題2013年7月16日
18世紀の話だが、フランス革命の、もう1つの原因はパンの価格の高騰だという。すくなくとも、それがキッカケになったのは確かなようだ。王妃マリー・アントワネットは「パンがなければ、ケーキを食べればいいのに」といったそうだ。いまの日本の政治家の農政についての空論と重なるところがある。
さて、こんど起きたエジプトのクーデターの、大きな原因の1つも、国際穀物価格の上昇による食糧価格の高騰だという。確かに国際穀物価格は歴史的な高値圏にある。
この事態を、アメリカは決してクーデターと言わない。民主的な選挙で選んだ大統領を、軍隊が軍事力を使って代えたのだから、クーデターであることは、誰がみても間違いはない。だが、クーデターと言ってしまうと、アメリカは親米的なエジプト軍に対して援助ができなくなり、エジプトに対する政治的な影響力を失ってしまう。
ついでに言っておこう。日本の、マスコミの多くも、アメリカに遠慮して表現の自由を棄てたのか、クーデターとは言わないで、「事実上のクーデター」と奴隷の言葉で伝えている。
国際政治のなかで、また、文明史のなかで、いくつかの問題があるが、ここでは、食糧価格の高騰に注目しよう。
エジプトでは、「アラブの春」の結果、新しい大統領が選ばれたが、その政治のもとで、経済が停滞している。
経済の停滞といっても、その結果、国民の文化的な生活が損なわれた、などという次元のことではない。明日の食糧に事欠く、という切迫した事態に陥っている。所得が増えないのに、食糧価格が高騰したからである。
国民を空腹にさせない、という責務は政府が負っている。だから、少なからぬ国民が政府に不満をもち、軍のクーデターに共感をもっているという。
筆者は、クーデターに共感するものではない。クーデターの背景に、国民の空腹があることを指摘したいのである。
◇
国際市場での食糧価格の高騰が、エジプト国民の空腹の直接の原因になったのである。つまり、海外の事情で国内の政変が起きた。
これは、起きてはならぬことである。これでは、国家の独立が保てない。独立を保つには、食糧は、すくなくとも基礎的な食糧は、平時から、国権の及ぶ範囲、つまり、国内で自給しておかねばならない。
◇
国際市場での食糧価格の高騰は、ことに近年は、需給関係だけでは決まらない。投機マネーが大きく介在する。だから、海外の事情とは、海外の需給関係だけでなく、海外の投機マネーの動向でもある。
つまり、投機マネーは国家の政変をもたらすことができる。以前は間接的に政治を動かしてきたが、今度のエジプトの政変は、投機マネーが直接的な原因になってもたらしたもの、ともいえる。
国際的な投機マネーの規制は、以前からいわれているが、未だになされていない。政治は有効な手が出せないでいる。それほどまでに、投機マネーには政治に対する支配力がある。
◇
国際食糧市場での投機マネーの暗躍は、今後に予想される世界規模での食糧危機の主役になって、大きな影響を及ぼすだろう。
食糧危機といっても、それは世界の人びとを平等に空腹にするのではない。市場原理主義のもとでは、食糧を買える人は満腹だが、買えない人は空腹、という格差がいまより酷くなり、空腹の人が増えることになる。そして、エジプトのような社会的不安定が地球規模で広がる。
◇
投機マネーは、市場原理主義の申し子である。こうした市場原理主義は世界的に反省されねばならない。食糧主権は、市場原理主義と相容れない。
われわれは、市場原理主義を排して、食糧主権を守らねばならない。そして、食糧自給率を高めねばならぬ。
こんどの参議院選挙でも分ったことだが、各政党の農政公約で、食糧自給率向上の政策が色あせつつある。代わって、市場原理主義に基づく競争原理や効率主義が、前面にでてきた。まことに嘆かわしいことである。
(前回 「滴り落ちる」理論の破綻)
(前々回 農業・農村所得倍増計画の落とし穴)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 高知県2024年7月16日
-
【注意報】イネカメムシ 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2024年7月16日
-
30年目を迎えたパルシステムの予約登録米【熊野孝文・米マーケット情報】2024年7月16日
-
JA全農、ジェトロ、JFOODOが連携協定 日本産農畜産物の輸出拡大を推進2024年7月16日
-
「雨にも負けず塩にも負けず」環境変動に強いイネを開発 島根大学・赤間一仁教授インタビュー2024年7月16日
-
藤原紀香がMC 新番組「紀香とゆる飲み」YouTubeで配信開始 JAタウン2024年7月16日
-
身の回りの国産大豆商品に注目「国産大豆商品発見コンクール」開催 JA全農2024年7月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」鹿児島県で黒酢料理を堪能 JAタウン2024年7月16日
-
【役員人事】ジェイエイフーズおおいた(6月25日付)2024年7月16日
-
【人事異動】ジェイエイフーズおおいた(4月1日付)2024年7月16日
-
日清食品とJA全農「サプライチェーンイノベーション大賞」で優秀賞2024年7月16日
-
自然派Style ミルクの味わいがひろがる「にくきゅうアイスバー」新登場 コープ自然派2024年7月16日
-
熊本県にコメリパワー「山鹿店」28日に新規開店2024年7月16日
-
「いわて農業未来プロジェクト」岩手県産ブランドキャベツ「いわて春みどり」を支援開始2024年7月16日
-
北海道で農業×アルバイト×観光「農WORK(ノウワク)トリップ」開設2024年7月16日
-
水田用除草ロボット「SV01-2025」受注開始 ソルトフラッツ2024年7月16日
-
元気な地域づくりを目指す団体を資金面で応援 助成総額400万円 パルシステム神奈川2024年7月16日
-
環境と未来を学べる体験型イベント 小平と池袋で開催 生活クラブ2024年7月16日
-
ポーランドからの家きん肉等の一時輸入停止を解除 農水省2024年7月16日
-
JAタウンのショップ「ホクレン」北海道産メロンが当たる「野菜BOX」発売2024年7月16日