人事2024 左バナー 
JA全農人事情報
左カラム_病害虫情報2021
新聞購読申込 230901
左カラム_コラム_正義派の農政論_pc
左カラム_コラム_米マーケット情報_pc
左カラム_コラム_地方の眼力_pc
左カラム_コラム_食料・農業問題 本質と裏側
左カラム_コラム_昔の農村・今の世の中_pc
左カラム_コラム_花づくり_pc
左カラム_コラム_グローバルとローカル_pc
左カラム_コラム_TPPから見える風景_pc
左カラム_コラム_ムラの角から_pc
SPヘッダー:石原バイオサイエンス・クロスアウトフロアブル
FMCプレバソンPC
FMCセンターSP:ベネビア®OD

TPPの甘い交渉2013年9月2日

一覧へ

【森島 賢】

 30日に、ブルネイでのTPP秘密交渉が秘密裡に終わった。国民はなにも知らされずに終わった。国民不在の外交といわざるをえない。
 交渉の手練手管を公開せよ、というのではない。基本姿勢を鮮明にせよ、といいたい。ことに、米などの関税の撤廃や削減には断固として応じない、という姿勢を見せねばならない。
 米を考えよう。ここには長い期間をかけて、関税率を少し下げれば乗り切れるだろう、という甘い考えがある。ごく一部の、実態を知らない評論家が、そう主張している。

 いま米は、日本で870万トン生産している。その生産金額は、自家消費分も含めて1兆8500億円である。
 これでは、とてもやって行けない。生産量は減ってしまい、輸入に頼ることになり、いまでも低い食糧自給率がさらに下がってしまう。だから、政府は5000億円の助成をして、ようやく生産量を保っている。
 つまり生産額と助成額を合計した2兆3500億円をかけて、米の生産量を維持している。これより少なくなれば、生産を縮小しなければならぬほど、ぎりぎりのところで生産量を維持している。
 1トンの生産を維持する金額は、2兆3500億円割る870万トンで27万円である。

 これだけの金額を農家に保証すれば、TPPで輸入を自由化しても、国内生産量を維持できる、という甘い考えがある。
 安価な輸入米が入っても、輸入米と同じ価格で国産米を売り、その価格が27万円(玄米1トン当たり、以下同じ)よりも安ければ、それに足りない分を政府が助成すればいい、というのである。
 こうした制度を直接支払い制度という。机の前に座って考える人の中には、なかなかいい考えだ、と思う人がいる。
 しかし、何故いいのか、と考える人はいない。唯一の根拠は、欧米諸国がこの制度を導入している、というだけである。理論的な根拠はない。
 その上、風土的、歴史的条件の違いによって、日本の米生産の実態は欧米とは全く違う。

 かりに、輸入米が20万円程度ならどうなるか、と彼らは考える。
 国産米も20万円で売ればいい。生産量の870万トンと掛け算して、生産金額は1兆7400億円になる。国内生産量を維持するための2兆3500億円に不足する分の6100億円を、政府が助成すればいいことになる。いまの助成金額は5000億円だから、それに僅か1100億円だけ上乗せすればいい、この僅かな1100億円がTPP対策費ということになる。目出度し目出度し、というわけである。
 だが、ここには輸入米が20万円だ、という仮定がある。これが致命的な誤りで、ここに大きな落とし穴がある。

 米の国際価格をみよう。下の図は農水省の資料の中にある国際価格である。

米の国際価格図の出所は農水省の資料(61ページ)

 これでみると最近の7月の国際価格は544ドル(精米1トン当たり)である。これは精米価格だから玄米価格にし、1ドルを100円で計算すると、4.9万円である。海上運賃を足しても5.5万円程度だろう。つまり、前の仮定の20万円とは大違いである。

 短期的にみると、この価格で日本人好みの米を輸出できる国はないだろう。日本人は米について、国際的に特殊な味覚を持っているからである。この味覚は国際的に認められているわけではない。
 筆者は、日本の米は世界中で一番旨い、と誇りに思っている。だが、日本以外の人は、日本の米が特別に旨い、と思っているわけではない。各国は、それぞれ自国の国民の好みにあった旨い米を作っている。
 問題は長期の問題である。日本の農業を将来どうするか、食糧安保をどう確保するか、の問題である。
 もしも、TPPで日本が米の関税を撤廃したり引き下げたりすれば、輸出国は、長期的な視点で、日本人好みの米を作って輸出するだろう。日本人好みの米だからといって、従来作っていた米と比べて経費が余分にかかるわけではない。つまり、日本人好みの米を、他の米と同じ国際価格で輸出するだろう。

 輸入価格は実際には5.5万円だから、事態は次のようになる。
 国産米を輸入価格と同じ5.5万円で売ると、870万トンの生産金額は4800億円にしかならない。国内生産量を維持するための2兆3500億円には程遠い。2割にすぎない。8割の不足額の1兆8700億円を政府が助成しなければならなくなる。
 20万円の仮定のときとは全く違う。欧米の状況とは、全く違うのである。
 多くの国民は、米作農家が収入の8割を補助金に依存する事態を容認しないだろう。これは、決していい制度ではない。
 この制度の導入を主張する人は、こうした実態を認識していない。だから机上の空論である。それは、日本の針路を誤るものである。

 こうした空論に惑わされて、TPP交渉を行ってはならない。
 ここには、日本と欧米との間にある風土的、歴史的条件の決定的な違いがある。それを無視するなら、日本は米生産を断念するしかない。そして、農村社会を荒廃させ、食糧を外国に依存し、食糧主権を放棄するしかない。
 いま政治家に求められていることは、もっと声を大きくして、関税撤廃や関税引き下げに反対を叫ぶことである。政府を厳しく説得し、TPPで、万一、政府が妥協したら、党議に反し、党籍を剥奪されても、国会の批准に反対する覚悟を固めることである。


(前回 院外活動で政界再編を

(前々回 弱肉強食の時代がやってくる?

(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)

重要な記事

ヤンマーSP

最新の記事

DiSC:SP

みどり戦略

Z-GIS 右正方形2 SP 230630

注目のテーマ

注目のテーマ

JA共済連:SP

JA人事

JAバンク:SP

注目のタグ

topへ戻る