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TPPでも国境は消せない2013年9月24日

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【森島 賢】

 TPPの秘密交渉が山場にさしかかったようだ。いよいよ日本は農業を捨てるのだろうか。
 古い話で恐縮だが、前原誠司氏(衆、京都2、当時の外務大臣)は、1.5%の第1次産業は残りの98.5%の産業の犠牲になれ、という主旨の発言をしたことがある。食糧は国内で生産しなくていい、外国から買えばいい、という考えのようだ。ここには、国境の存在、国家の役割り、を無視した政治哲学がある。
 この政治哲学は、いまでもTPP推進派のなかで生きているようだ。だが、これは幻想にすぎない。世界はグローバル化したというが、国家は厳然としてあるし、国境は消えていない。

 TPPには、全ての物品を世界中に自由に流通させることがいいことだ、という考えがある。そのためには、全ての国家が、全ての物品の関税をゼロにするのがいい、という。
 そうすれば、自由な競争ができ、優勝劣敗によって、世界が効率的になる、という。
 だから国家の壁、つまり、国境をなくせ、という。

 いったい、なぜ国境があるのか。国家があるのか。食糧のばあいを考えよう。
 国家は、食糧不足になれば食糧の輸出を禁止する。国境を越え、他国へ売って儲けることを、国家は犯罪として暴力的に阻止する。国民が許さないからである。それが国民の利益だからである。他国がそれを止めさせることはできない。
 だから、食糧不足のばあい、飢餓に直面するのは、日本のように、食糧を外国に依存する国の国民である。
 このことを、TPP推進派は分かっていない。そういう国家観を持っていない。彼らが持っているのは、国民の飢餓を無視し、国民に犠牲を強いる反国民的な国家観である。

 国家や国境があることは、残念なことかもしれない。それらが無いことが理想かもしれない。だが現実の世界には、国家もあるし国境もある。そうした世界に、われわれは生きている。
 筆者の友人は、国家が消滅し、国境が消えるのは、地球に宇宙軍が攻め込んできたときだろう、それまでは消えない、という。筆者も同感である。
 国家や国境の消滅は、理想ではあるが、半永久的に実現することのない見果てぬ夢なのである。

 こうした夢のような政治哲学をもった人たちがTPPを推進しているなら、不幸なことである。
 こうした考えをもった評論家がTVなどで活躍している。それを政治が利用している。
 われわれは、この政治哲学が反国民的であることを暴かねばならない。国家と国境の存在を覚らせねばならない。
 TPPがいうゼロ関税は、決して理想ではない。それどころか国民を飢餓に陥れる。つまり、反国民的である。国民のために、5品目の関税は守り通さねばならない。
 国家は、いまや国民を抑圧する機関というだけではない。抑圧から国民を守る砦でもある。


(前回 TPPで新植民地主義に加担する日本

(前々回 TPPで日本はアジアの文明破壊の加害者になる

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