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安い米の輸入は歓迎しない2013年10月2日

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【森島 賢】

 一昨日この欄に掲載した「TPPで1俵2200円の米がやってくる」の記事についての論評が、ネットの上を駆けめぐり、多くの人に読まれている。まずは感謝したい。
 それらの論評について、発言したい。
 発言の主旨は、いくつかあるが、そのなかで今回は、「消費者は安い米の輸入を歓迎する」という論評に対する筆者の考えを述べて、批判を乞いたい。

 筆者も毎日2回は米を食べている。米の消費者である。わずかな年金で暮らしているから米が安くなることは有難い。しかし、安い米の輸入は歓迎しない。なぜか。
 筆者は消費者だが、それが筆者の全てではない。そのごく一部にすぎない。筆者はこうした評論を書き、研究者として社会に貢献している、と自負している。つまり、研究者として社会に警鐘を鳴らすことが、筆者の社会的使命であり、人格の全てである。安い米を輸入することが、日本社会にとっていいことかどうか。そのさい、筆者は消費者としての、ことに目先の利害だけを考慮することはしない。
 そうした社会的貢献の見返りとして、社会から年金を戴いていている。

 私事を書いたのではない。誰しもが消費者である。だが、消費者であることが、その人の人格の全てではない。
 誰にとっても、消費者としての利益、しかも目先の利益だけを追求することが、その人の人生の唯1つの目的ではない。もしも、それだけが目的だとすれば、それは寂しい人生だろう。
 「安い米の輸入を歓迎する」と主張するのなら、「消費者は」などという言い訳をしないで、自分の社会観の、そして人格の全てを賭けて主張してもらいたい。言い訳は見苦しい。

 「安い米の輸入を歓迎する」と、いったい何が起こるか。全国民の全人生にとって、つまり、全社会にとって何が起こるか。それをきちんと見通したうえで、そうなってもいい、という覚悟をして、その主張をしてもらいたい。そうでなければ、無責任な主張になる。
 「安い米の輸入を歓迎する」と、安い米を食べられるだけではない。日本から米生産がなくなる。そうなったら何が起こるか、という責任のある見通しをもって主張してもらいたい。
 筆者の見解は、この欄で何回か書いたことだが、あらためて主なことを2つだけを書こう。

 第1は、食糧安保の問題である。
 日本人は米を主食にしている。エネルギーを主に米から摂っている。その米の供給を外国に依存することの問題である。
 古今東西の歴史をみると、食糧は第3の武器だった。相手国を軍事的に屈服させるために食糧の供給を絶つ、という歴史は、いまも続いている。主食を外国に依存すると、いざ、というときに外国に屈服することになる。
 そうした、きな臭い事態を想定しなくてもいい。主食を外国に依存すれば、自立的な外交ができなくなる。
 それで日本人の矜持が保てるのか。全国民の全人格にとっていいことか。それが問われている。

 第2は、日本社会の安定性の崩壊である。
 米は農村の基盤的な生産活動である。これがなくなれば、農村社会の安定性は、その基礎から崩壊する。
 これまで、日本の農村社会の安定が、日本社会全体の安定を支えてきた。他国のように、農村が不安定になり、農村で生活できなくなって、都市へ押しかけ、その結果、都市をも不安定にする、ということは日本にはなかった。
 農村の安定が、日本社会全体の安定の基礎になっている。それが、いま崩れようとしている。
 そうなってもいいから、安い輸入米を歓迎するのか、それが問われている。
 最後にもういちど言おう。農産5品目は日本社会の聖域である。そこをTPPに犯されてはならない。


(前回 TPPで1俵2200円の米がやってくる

(前々回 TPPでも国境は消せない

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