TPPをアジアの社会思想は受け入れない2013年10月21日
1ダースなら安くなる、という商習慣がある。
それとは反対で、1ダースなら高くなる、というのもある。
いまの日本人が聞きなれているのは、「...安くなる」で、「...高くなる」は奇異に感じる。だが、アジアの青空市場では、「...高くなる」が普通に通用している。
この商習慣は、アジアでは古くからある。1ダースも大量に買うことができる金持ちには、高い単価で売ってもいい、金持ちは高く買いましょう、という理屈である。
これは、商習慣というよりも、経済哲学、社会思想といっていい。
こうした社会思想を、TPPの盟主であるアメリカは容認しないだろう。
1ダースなら、1つ1つ売るよりも取引にかかる費用の単価は小さくなるし、売上高が増える。だから、安くしてもいい。その方が合理的だ。そして合理的なことが、なによりも大事なことだ、という理屈である。
しかし、アジアは、そのように考えない。低所得者に安く売るのはいい。だが、高所得者には安く売らなくていい。そうした方が、社会全体をみたときいいことだ、と考える。もっと深い意味で合理的だ、と考える。
合理性の先に何があるかを、深く考える。途中で思考を停止しない。アジアの思想には、このような強靭さがある。
TPPは「…安くなる」派で、アジアは「…高くなる」派だ。
◇
日本は「…安くなる」派で、「価値観を共有する」という根源には、このような社会思想がある。アジアが遅れているのではない。それは、世界に普遍するものではない。欧米では普遍するかもしれないが、アジアでは普遍しない。
ここには、市場にたいする妄信がある。市場に任せればすべてうまくいく、という誤信がある。
実際にはそうなっていない。市場は、すべての人に対して平等ではない。市場では、高所得者は強者で、低所得者は弱者である。弱者は市場競争で強者には勝てない。「…安くなる」という市場では、強者はトクをして、ますます強くなる。
◇
こうした市場の欠陥を矯正するために、「…高くなる」という思想が生まれた。
この思想の根底には「知足」という、古くからのアジアの思想がある。足るを知れ、という意味である。
日本には、協同組合の元祖ともいえる二宮尊徳に「分度」という思想がある。これは、弱者にたいして「身分をわきまえて我慢せよ」ということではない。それは、このHPで太田原高昭教授が解説しているように、強者に対して「知足」を説くものである。
いづれも、強者の市場での私利私欲のあくなき充足を、否定する思想である。
◇
アメリカを盟主とするTPPは、このようなアジアの社会思想を受け入れないだろう。アメリカの社会思想に固執することを止めないだろう。
いま日本は、強者をますます強くするTPPで中心的な役割りをはたすか、それとも、弱者も共存できるRCEPなど、アジア諸国の経済連携で主導的な役割りをはたすか、その分岐点に立っている。
(前回 農協に捨てるべき既得権はない)
(前々回 「高米価」の要求は農業者のエゴではない)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日