米政策見直し案の財源問題2013年11月18日
農水省は、米政策の見直しを進めている。
その中で、政府は、米の需給と価格を安定させる、という重大な責任を放棄しようとしている。市場に任せればいい、というのだが、それは、まさに評判の悪い市場原理主義である。この点に最大の問題点がある。それでは、やがて米価はずるずると下がり、輸入に依存することになるだろう。
もう1つの問題点は、米価の下落をくい止めるための岩盤対策を廃止することである。それでは、米価は止めどもなく下がることになるだろう。
ここでは、これらの点は指摘するだけにとどめ、見直し案の目玉である、飼料米の増産案について考えたい。昨年は、17万トンの米を飼料にしていただけだが、これを450万トンに増やすという。
まことに壮大な案である。穀物自給率は、いまの28%から40%にまで高くなる。これは、食糧安全保障政策の王道である。いまの水田では不足するから、減反どころか復田することになる。これは、農業再生の切り札になる。
だが、そのための助成金を確保できるか。それが問題である。
飼料米の増産案を、やや詳しくみよう。
17万トンから450万トンに増やすのだから、433万トン増産することになる。単収が1ha当たり5トンとして、増産面積は、87万haになる。昨年の水稲作付け面積は164万haだったから、53%もの大幅な増加になる。
作った米のうち、3分の2は人間が食べるが、3分の1は家畜が食べることになる。自給穀物が増えるから、穀物自給率は、現在の28%から40%に高まる。
減反は大幅に緩和できる。それどころか、現在、水田は247万haしかないから足りない。復田しなければならなくなる。
その余地は充分にある。心配無用だ。減反直前の1969年には344haの水田があったのだ。米粉米の増産も考えているが、そのための余地も充分にある。
◇
こうなれば、若者も水田農業に戻ってくるだろう。耕作放棄地は、ほとんどなくなるだろう。まさに画期的で、壮大な案である。農業再生の切り札になる。
その上、食糧安全保障政策として、最高級の評価ができる。つまり、輸入が途絶するなどの不測の事態になったとき、飼料米はそのままで国民の主食にできる。
◇
問題は助成金である。確保すべき助成金の金額を計算しよう。
政府は、制度を充実させる、といっている。だから、現在の10アール当たり8万円の助成単価を値切ることはあるまい。
かりに、8万円としよう、これの87万ha分だから、助成金の総額は約7000億円になる。決して多い金額ではない。それで食糧安保を確保できるし、日本農業を再生できるのだから。
だが、この金額を確保できなければ、絵にかいた餅になる。
◇
政府は、戸別所得補償制度をやめて、10アール当たり1.5万円の固定部分の財源を当てる、という。岩盤対策を犠牲にする、というのである。しかし、その金額は約1600億円にすぎない。変動部分を加えても1700億円である。これでは、とうてい足りない。
7000億円に不足する5300億円をどうするのか。赤字財政のなかで、財源を確保できるのか。それが問題である。ここで、この案の本気度が試される。
◇
この財源問題をうやむやにして、壮大な案と印象づけることは許されない。悪質な欺瞞ともいえる。
制度を充実させる、といいながら、助成金の単価を値切るつもりかもしれない。助成金の不足分を追加できなければ、単価は24%(1700億円割る7000億円)になり、10アール当たり2万円になってしまう。
それでは、壮大な案どころか、これまでの飼料米生産をも台無しにしてしまう。
450万トンの潜在需要がある、といいながら、助成金の支払いに無理な条件をつけて、支払いの対象を減らし、総額を抑えるつもりかもしれない。助成金の不足分を追加できなければ、対象は87万haの24%の21万haになってしまう。
それでは、壮大な案として高く評価されるどころか、廃案にせよ、という声が出てくるだろう。犠牲にした戸別所得補償制度を元に戻せ、という声が高まるだろう。
◇
案の壮大さに眼を奪われてはならない。政府は、数字を入れた具体案を早く示さねばならない。日本中で注視している。
最後に言っておきたい。TPPで米の関税を引き下げたり、ゼロにすれば、この案は雲散霧消する。
もう1つ言っておきたい。政府が需給と価格の安定に責任を持たねば、この案は瓦解する。
(前回 農水省の米政策見直し案で米価は底なし沼へ)
(前々回 朝日新聞の批判精神を欠いた米政策の提言)
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