【コラム・森田実の政治評論】都知事選が生み出したもの 地方選を通じ新の日本再生を2014年2月27日
・真の主役は安倍首相
・集団的自衛権で憲法空文化の恐れ
・集団的自衛権容認の意味
・東アジアが危険地域に
自民党政権のもとで強まる"戦後体制"からの脱却の動きと政治の強権性。幅広い国民的議論抜きの拙速な政治手法は、民主主義にとって大きな危険性を伴う。それはいうまでもなく地域に根ざした農業、農村づくりを通じて安心して暮らせる将来を次代へつなごうという取り組みにも無縁ではない。政治評論家の森田実氏に、今日の政治のあり方を語ってもらう。
“戦後日本の改造”加速か
◆真の主役は安倍首相
2月9日、東京都知事選の選挙当日、安倍首相はソチオリンピック開会式ために訪露し、プーチン大統領と日露首脳会談を行っていました。このため「都知事選の真の主役は安倍首相」との見方に違和感があるでしょうが、安倍氏こそ真の中心人物だったのです。主人公に見えた舛添、細川、小泉の各氏は大きな流れでは脇役に過ぎません。
それは都知事選の本質が安倍政治の審判であったことを、安倍首相自身が知っていたからです。安倍晋三氏は2012年9月に自民党総裁に選ばれ、同年12月の総選挙で勝利し首相に就きました。13年夏の二つの選挙でも、安倍首相率いる自民党は勝ちました。6月の東京都議会選挙は圧勝で、7月の参議院議員選挙でも単独過半数には及ばなかったものの大躍進しました。おまけに同年9月のオリンピック委員会で、2020年東京五輪を勝ち取りました。
勝利につぐ勝利の末に安倍首相は経済優先路線を修正し、年来の主張である「戦後レジームからの脱却」に取りかかります。昨秋の臨時国会において、その第一歩として「日本版NSC」を創設し、第二歩として特定秘密保護法を成立させました。そして念願だった総理としての靖国参拝を遂行したのです。靖国参拝に対しては国際社会から厳しい批判を受けましたが、国内の支持率上昇の面では成果を上げました。秘密保護法で下落した人気を靖国参拝で取り戻したのです。
そして2月9日の東京都知事選。今後2年半、大型選挙はありません。今回勝てば長期政権への道を進むことができますが、反対に敗北すれば不安定化するおそれがありました。安倍首相にとって都知事選は「天下分け目の関ヶ原」だったのです。
安倍首相は世論調査を繰り返し、舛添氏が圧倒的に優勢であることを確認して、巧みに同氏を抱き込んで推薦候補にしたのです。安倍・舛添陣営は「勝つためにはなんでもやる」選挙で成功しました。安倍氏は結果が出た瞬間から次の勝負を仕掛けました。米国との関係修復のために、解釈改憲による集団的自衛権行使の容認を閣議決定する道を整えることに取りかかったのです。4月のオバマ大統領訪日時には、この問題にメドをつけていることと思われます。
◆集団的自衛権で憲法空文化の恐れ
舛添氏は211万票を得て当選しました。2位は98万票の宇都宮候補でしたが、同氏を擁立して選挙戦を主導した共産党は勢いづきました。日本の左翼革新陣営の主導権は同党が握りました。草の根レベルで、公明党・創価学会との抗争は激しくなるでしょう。
細川護煕氏を支援した民主党は壊滅状態になりました。同党の支持母体である連合東京が原発推進の立場から舛添候補を支持したのです。
もうひとつの大きなことは、愛国主義的右翼勢力の田母神氏が61万票をとったことです。それまで日陰で暗躍していたネット右翼が国民の前に公然と姿を現わし、選挙の世界に参入してきたのです。
今後、田母神新党的な政治勢力が台頭し、各地の地方選挙に参戦してくるものと思われます。国政選挙は2年半後ですが、田母神氏を中心とする愛国派右翼は“真正”保守政党を名乗って登場してくるでしょう。
◆集団的自衛権容認の意味
安倍首相は2月5日の参議院予算委員会で羽田雄一郎議員(民主党)の質問に答えて、「必ずしも憲法改正によらなくても集団的自衛権行使容認は可能」との見解を表明しました。2月12日の衆議院予算委員会では「憲法九条のもとでは個別的自衛権は行使できるが、集団的自衛権は行使できない」とする従来の憲法解釈を修正する決意を表明しました。
この衆院予算委員会で安倍首相を激励する発言が、公明党から入閣している大田昭宏国土交通大臣から出ました。大田氏は「すべて総理が答えていることに同意している。違和感はない」と答えたのです。
公明党は集団的自衛権行使容認を受け入れたわけではありませんが、前代表であり、公明党を代表して入閣している同氏の「違和感なし」との言明には、安倍首相を後押しする効果があります。安倍首相は予算成立後、有識者懇談会の報告書にそって、公明党を含む全閣僚の賛同を得て、閣議決定を断行するものと見られています。ただし公明党の態度は未定です。
安倍首相の集団的自衛権行使容認決定を強く求めているのは米国政府です。すでに2013年10月の日米2+2(日本の外務・防衛大臣と米国の国務・国防長官の4者会談)において、日本が集団的自衛権行使に踏み込むことについての合意が表明されています。
日本が集団的自衛権行使を決定することの意味は非常に大きいのです。第一に、1946年に公布、翌年施行された日本国憲法の第九条は「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を規定しています。しかし集団的自衛権は同盟国の米国や密接な関係にある国のためとはいえ、日本国政府が自発的に戦争することを意味します。
憲法第九条を「戦争することが可能」と読み取ることは鷺を烏と言うかごときです。このような無理な解釈改憲を強行すれば、憲法は空文化します。これは法の支配にもとづく法治国家にとっては常軌を逸した行為です。日本の立法機関である国会と主権者たる国民が無視されることになり、議会制民主主義は効力を失います。
第二に、日本政府が集団的自衛権行使を合憲であると認めたあと、日米合同演習中に「何者か」が米軍を襲ったために、日本がその「何者か」を攻撃したとします。日本のこの軍事行動はその「何者か」からすれば、日本から"先制攻撃"を受けたことになります。その時その「何者か」は日本列島全体を対象にし、報復してくるでしょう。集団的自衛権の行使によって日本国民全員が相手国の軍事攻撃の標的になるのです。
この事態を想定して、日本は防衛力強化を急ぎ、米国から大量の武器を買うことになります。すでにこの場合に備えて軍需産業育成が議論されています。2月12日の衆議院予算委員会で、安倍首相と近い思想をもつ石原慎太郎日本維新の会共同代表は「軍需産業は裾野の広い産業であり、その発展は景気を上昇させ、雇用増進の効果がある」と述べています。
集団的自衛権行使の決定は、日本国憲法を土台に築かれた戦後日本の在り方を全面的に改造することになります。日本は平和国家ではなくなり、自衛隊は米軍とともに全世界に派兵する軍事国家に変質します。
◆東アジアが危険地域に
日中関係が悪化しており、尖閣周辺で自衛隊と人民軍とのあいだで軍事衝突が起きれば、紛争解決は困難な状況です。このため東アジア地域への投資を控える傾向が目立っています。これはアベノミクスにとってはマイナス要因です。
米国は日中の軍事衝突を望んでいませんが、両国が冷戦状態のままであって欲しいとは思っています。日本が米国の中古軍備品の引き取り手でいてくれるからです。政界、官界、中央財界、マスコミだけを見ていますと、日本は安倍首相を指揮官として戦後平和憲法体制の否定に向かっているように見えます。
しかし東京以外の地域に目を転じますと、平和国家として生きることが豊かさにつながるという意識が健在です。ほぼ毎週、自治体選挙が行われています。地方選を通じて軍国主義的な方向を止めて、地方経済、農業、中小企業の繁栄をはかり、恵まれざる人びとを大切にする政治を市町村レベルで進めることができれば、それが真の日本再生の道になるでしょう。
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