日豪EPAで崖っぷちに立つ牛肉2014年4月7日
日豪EPAで牛肉の輸入関税が引き下げられようとしている。
オーストラリアは、日本に牛肉の関税を半分に下げることを要求している。現在は38.5%だから、この半分の19.25%に下げよ、という要求である。
日本農業新聞(4月5日)が憶測した情報では、これに対して、日本は25~30%に下げる、という譲歩案を示しているようだ。今朝の朝日新聞は、20%台にすることを政府が容認した、と伝えている。
もしも、これが本当なら、両国の主張の差は、それほど大きくない。いまオーストラリアのアボット首相が来日中だが、帰るまでに妥結するかもしれない。
そうなれば、影響は甚大である。TPPは、ここが出発点になって交渉が進むだろう。聖域にした重要5品目の一角が崩れ、国会決議が破られることになる。
上の図は、牛肉について過去53年間の国内生産量と輸入量と消費量とをみたものである。
前半の1980年代半ばまでは、消費量の伸びを国内生産と輸入で分け合って供給していた。だが、それ以後は、国内生産量は横ばいを続け、消費量が増えた分は全て輸入に取られてしまった。
2001年以後は、BSE問題で消費量が減り、それにつれて輸入量が激減したが、2004年に底をうった。その後、消費量は僅かに増えているだけだ。この期間も国内生産量は横ばいを続けている。今後どうなるか。
◇
牛肉は1991年から関税化され、輸入量が急激に増えた。だが、あのころは、消費量も増えていたので、国内生産量は横ばいを続けることができた。消費量が増えた分を全て外国に取られてしまったが、国内生産量が激減することはなかった。
しかし、今度は違う。消費量はせいぜい微増の程度である。今度は輸入量が増えれば、その分だけ国内生産量を減らさねばならない。
◇
こうした状況のなかで、かりに関税を20%台に下げれば、輸入価格は関税込みで現在138.5円の牛肉が120円台に下がる。10%程度下がることになる。その影響は甚大なものになるだろう。
オーストラリア産の牛肉は牧草飼育の冷凍物で、日本の牛肉は穀物飼育の冷蔵物だから、品質がちがう。それゆえ、日本の競争相手にならない。だから、日本の国内生産には影響しない。という見方がある。だが、これは見誤っている。
オーストラリアにも日本人向けの穀物飼育の牛肉があるし、冷蔵物もある。これは、国産牛肉に直接影響する。
その上、牧草飼育と穀物飼育との間や、冷蔵物と冷凍物との間に、越えられない一線が引かれているわけではない。価格条件によって一線は越えられる。そのように、経済は生き物のように複雑な有機的関連をもっている。酪農家の大きな収入源であるヌレ子の価格にも影響するだろう。
さらに、影響は、牛肉にとどまらない。牛肉価格が安くなれば、それに代替する豚肉価格や鶏肉価格も安くなる。魚の価格も安くなる、という研究結果もある。これも経済の有機的関連というものだ。つまり、今夜の夕食は豚肉か鶏肉か魚にしようと考えていた人のなかに、牛肉が安いので牛肉に代えよう、と考え直す人がでてくる。その分、豚肉や鶏肉や魚が売れなくなって、価格が下がるのである。
◇
影響は、さらに深刻な広がりをみせるだろう。
日豪EPAの交渉で、日本が牛肉の関税引き下げを認めれば、それがTPP交渉の出発点になるだろう。聖域である牛肉が取り上げられ、それ以上の幅の関税引下げが、TPP交渉の重要な論点になるだろう。
そうなれば、すでに重要5品目の一角が崩れたことになる。国会での「牛肉…など…重要品目について…除外又は再協議の対象とする」という決議の無視になる。さらに一角にとどまらず、他の品目にも影響が及び、国会決議の全面的な否定になっていくだろう。
政府は、それでも国会で批准できる、と考えているのだろうか。国民の支持がえられる、と考えているのだろうか。
(前回 定年帰農者を歓迎しよう)
(前々回 協同組合は弱者切捨ての競争を否定する)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】チュウゴクアミガサハゴロモ 県内で初めて確認 埼玉県2024年11月5日
-
【特殊報】二ホンナシに「ニホンナシハモグリダニ」県内で初めて確認 佐賀県2024年11月5日
-
【注意報】トマトに「トマト黄化葉巻病」 県内全域で多発のおそれ 愛知県2024年11月5日
-
肥料費 28%増 米生産費 8年ぶりに10a13万円台 23年産米2024年11月5日
-
9割方が成約したクリスタルの取引会【熊野孝文・米マーケット情報】2024年11月5日
-
愛媛で豚熱 国内94例目 四国で初2024年11月5日
-
「ちんたいグランプリ2024」で準グランプリ受賞 ジェイエーアメニティーハウス2024年11月5日
-
生産量日本一 茨城県産「れんこん」30日まで期間限定で販売中 JAタウン2024年11月5日
-
「秋のまるごと豊橋フェア」7日から全農直営飲食店舗で開催 JA全農2024年11月5日
-
SAXES乾燥機・光選別機向けキャンペーンを実施 分析サービス「コメドック」無料お試しも サタケ2024年11月5日
-
中古農機具の買取販売専門店「農機具王」決算セール開催中 リンク2024年11月5日
-
ニッポン全国めん遊記「冬・年越しそばを噛みしめて」160人にプレゼント 全乾麺2024年11月5日
-
【人事異動】J-オイルミルズ(11月1日付)2024年11月5日
-
「起農みらい塾」食のイベント会場で学びの成果を披露 JAグループ広島2024年11月5日
-
グループの特例子会社2社を合併 クボタ2024年11月5日
-
病害虫対策を支援 農業向けアプリ「FAAM」をアップデート 11月中旬に配信2024年11月5日
-
乳の価値再発見「ジャパンミルクコングレス」最新のミルク研究を発表 Jミルク2024年11月5日
-
日本酒を鍋料理と合わせて楽しむ「鍋&SAKE」キャンペーン実施 日本酒造組合中央会2024年11月5日
-
宅配インフラ活用 家に居ながらフードドライブに協力 パルシステム千葉2024年11月5日
-
草刈りは手放しで AI+自律走行「MAIRAVO」コンセプト機発表 オカネツ工業2024年11月5日