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反TPP運動が新しい時代を切り拓く2014年5月7日

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【森島 賢】

 TPP問題は、日米首脳会議での合意を回避して、大きな山場を越えた。両首脳は、それぞれ、もしも妥協すれば国民の支持を大きく失う、と考えたのだろう。農協を中心にした反TPP勢力は、いま、それ程の大きな政治的力量を持っている。
 だが、両国の政府はTPPを断念したわけではない。この連休中も「聖域」に踏み込んで交渉を進めてきたようだ。
 今後も反TPP運動は続き、その底力を示すことになるだろう。そのために、より広範な国民組織の結成と、より強力な政治力の結集が必要になる。その力が、日本の政治を大きく揺さぶりつづけるだろう。

 反TPP運動の政治力の源泉を考えよう。その中心にある農協の政治力はどうか。
 「数は力なり」と言った大政治家がいた。一面的ではあるが、民主主義の原点を突いている。
 農協には、983万人の組合員がいる。日本全国の有権者は10、396万人だから、その9.5%になる。つまり、この説によれば農協の政治力は9.5%になる。

 一方、「1.5%の第一次産業のために、残りの98.5%の産業が犠牲になるのか」と言ったTPP推進派の政治家がいる。この政治家は「カネは力なり」という、民主主義に反する政治信条を持っているのだろう。
 第1次産業のうちの農業だけをみると、その産業規模は1.0%である。だから、この政治家の信条によれば、農業の政治力、したがって農協の政治力は1.0%になる。それゆえ、わずか1.0%しかない政治力が、日米首脳会議を動かしたことになる。これは誰がみてもおかしい。この政治信条は破綻したのだ。

 では、9.5%の農協の政治力が、日米首脳会議を動かしたのか。それだけではない。9.5%だけでは全体は動かせない。
 農協が、国民のなかで孤立していたら、こんどの成果は得られなかったろう。農協が反TPP運動の先頭に立っていて、多くの国民がそれに続いていた。だから政治を動かすことができた。
 だが、農協の反TPP運動を支持している経済的弱者である多くの国民が、反TPP運動のために、充分に組織されているか。充分に政治力を結集できているか。そうは思えない。

 弱者である多くの国民を組織している労組と生協をみてみよう。
 地方では労組も生協も、反TPP運動で大きな役割りをはたしている。たとえば、北海道では、連合傘下の連合北海道も、日生協傘下で北海道の半数以上の世帯を組織しているコープさっぽろも、反TPP運動に積極的に参加し、中心的な役割りを果たしている。TPPは、経済的弱者である組合員にとって、決して利益にならないことを、しっかり認識しているからである。
 しかし、労組も生協も、全国組織はそうではない。労組の最大の全国組織である連合は、反TPPどころか、財界といっしょになってTPP推進の片棒をかついでいる。また、生協の全国組織である日生協も、反TPPではない。連合も日生協も、地方の、現場の組合員の利益に反した組織になり下がっている。

 連合には、農協組合員の983万人より少ないとはいえ、684万人の組合員がいる。日生協には2697万人の組合員がいる。それだけの政治力を潜在的にもっている。しかし、地方にある傘下の組合は反TPP運動に参加しているものの、ばらばらになっていて、力を充分に発揮できていない。力を結集すべき連合と日生協が、全国組織としての役割りを果たしていないからである。
 今後の反TPP運動は、この2つの組織に潜在している政治力を、全国で結集することが、大きな課題になるだろう。そのためには、この2つの全国組織の抜本的な立て直しが期待される。
 それとともに、草の根の反TPP運動の組織化と、非正規労働に喘ぐ若者の組織化が、運動の成否のかぎを握っている。

 かりに今後、政府間でTPPを合意したと仮定しよう。そうなっても、国会で批准しなければ発効しない。それまでに何年もかかるだろう。
 ちなみに、ミニTPPといわれる韓米FTAは、政府間の合意から国会の批准までに5年もかかった。その間、韓国では反TPP運動がますます広がった。デモ隊が国会に突入して厳しく抗議する、という場面もあった。
 日本でも、TPP問題は、これから長い間、政治を揺るがす中心的な問題であり続けるだろう。その間に、何回かの国政選挙があるだろう。その選挙のたびごとに、TPPを批准するか否か、が主要な争点になる。批准して、この国のかたちを変えるかどうか、が重要な争点になる。
 TPP推進派の候補者は、農業者をはじめ、多くの国民から批判されつづけ、それに対して、ごまかしの言い訳をしつづける。そういう醜い姿を天下にさらすことになる。
 そうした中で、TPP問題を基軸にした政界再編が行われるかもしれない。それは、経済的弱者の側に立つか否か、という対立軸に重なっている。それは、沈滞した一党支配の政治状況を打破するために、歓迎すべきことだろう。
 いま農協は、弱者のための新しい社会の建設、という大義へ向かい、先頭に立って、混沌とした時代を大きく切り拓こうとしている。

 

(前回 TPPという自由貿易体制は悪だ

(前々回 TPPの分断政策には乗らない

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