【コラム・森田実の政治評論】国民を裏切ったTPP交渉2014年5月9日
・偽善に満ちた共同声明
・米国の優位明確に
・自衛権で暴走も
・アジア地域を分断
・対米従属が強まる
オバマ訪日は何を残したのか? 「森田実の政治評論」拡大版として今回は緊急に寄稿してもらった。森田氏は「安保」と「TPP」をめぐる首脳の駆け引きと共同声明の内容から「日米首脳はそれぞれ権力者としての自分の利益を取り、日本国民を犠牲にした」と批判している。
◆偽善に満ちた共同声明
「利して利する勿れ」(『呂氏春秋』)
上記の言葉は今から三千年以上前に周王朝を建てた武王の弟で聖人と言われた周公旦の言葉です。「政治を行う者は、人民の利益をもたらすことのみに専念すべきであって、自己の利益をはかってはいけない」という意味です。
多くの政治家は理想に燃えて政治の道を選びます。初めの頃は自分の利益を犠牲にして人民に尽くすことを心がけますが、一度権力を握ると豹変して自らの権力維持を優先させてしまい、人民の利益を犠牲にします。2014年4月下旬のオバマ米大統領の訪日は、これによって世界を平和にし、日米両国国民の福寿康寧を増進するためでなければならないのに、米国における自らの権力基盤をためるために使われました。安倍首相も、アジアの平和を守り、日本国民の安心・安全のために行うべき日米首脳会談を、自らの政治的地盤の強化と特異な個人的信条に基づく「戦後レジームからの脱却」のための右翼革命に利用し、国民の利益を犠牲にしてしまいました。この罪浅からず、と言うべきです。
(写真)
握手を交わす日米首脳(4月24日、赤坂迎賓館)
◆米国の優位明確に
おそらく日本国民の多くは4月25日に発表された「日米共同声明―アジア太平洋及びこれを越えた地域の未来を形作る日本と米国」の全文を読んでおられないのではないかと思います。マスコミは日米共同声明の発表時期をめぐる日米両国政府間の駆け引きばかりを報道しました。駆け引きの中心はTPP交渉の中身をめぐるものですが、肝心の交渉内容はすべて秘密ですから、国民は何が起きたのか、まったくわからないのです。
すべてを秘密にするというTPP交渉のあり方には大いに問題があります。政府が重要な問題、とくに直接国民生活に関係する経済、農業をめぐる交渉を秘密にしておくというのは、政府の横暴です。強権政治です。これほど乱暴な強権政治がまかり通るというのは異常なことです。日本のほとんどのマスコミが秘密交渉を非難しないのも異常です。
ただ明らかなことは、この共同声明発表時期の駆け引きに日本側は敗北し、米国がTPP交渉において優位に立ち、主導権を握ったことです。日本国民、とくに農業・酪農関係者の受ける打撃は小さくないと思います。
日米共同声明を読んだ方は、もうすでにおわかりのことだと思います。この文書は偽善と欺瞞に満ちています。正常な常識をもった方であれば、怒りで最後まで読了する気持ちを失ってしまうほどのひどい文書です。まず、「日米同盟の役割」見出しをつけた冒頭の文章を見てみましょう。二つの部分に分けて論じます。
◆自衛権で暴走も
《日本と米国との間の関係は、相互の信頼、ルールに基づく国際的な秩序への共通のビジョン、民主的な価値の支持及び開かれた市場の促進に対する共有されたコミットメント、並びに深い文化的及び人的な絆の上に築かれている。》
この中の「民主的な価値の支持」という言葉に注目します。日米同盟は民主主義という価値の共有の上にあるという意味です。しかし、これは真っ赤な偽りです。
今回の日米首脳会談において、オバマ米大統領は、安倍首相の集団的自衛権行使容認への日本の外交・安保政策の基本を変更しようとしている考えを支持しました。日米同盟のパートナーというより、親子関係の「親」に当たる米国大統領が支持してくれたのですから、安倍首相は集団的自衛権行使容認を合憲とする閣議決定に向かって爆走するでしょう。
今まで数十年間にわたって日本政府は憲法第9条のもとでは集団的自衛権は行使できないとしてきました。それを、国民にも国会もはからず、内閣だけで変えてしまおうとしているのです。憲法第9条に反する外交・安保政策をとろうとしているのですが、これを行うには憲法改正が必要です。憲法第96条という改定手続きが憲法で規定されていますから、 96条どおりに手続きをとる必要があります。ところが安倍首相は、憲法改正をせず、解釈を変えることで済ましてしまおうしています。これは明らかに憲法違反です。
今回の日米首脳会談において、驚くべきことに、自由と民主主義の政治のリーダーを自認している米国オバマ大統領が、憲法違反に向かって爆走している安倍首相を支持したのです。日米両国首脳は今まで日米同盟の基礎になると言ってきた民主主義の価値の共有という建前を放棄してしまったのです。もう一つあります。次の一文を見てください。
(写真)
日米首脳会談の様子(24日、赤坂迎賓館)
◆アジア地域を分断
《日米同盟は、地域の平和と安全の礎であり、グローバルな協力の基礎である。国際協調主義に基づく「積極的平和主義」という日本の政策と米国のアジア太平洋地域でのリバランスは、共に、平和で繁栄したアジア太平洋を確かなものにしていくために同盟が主導的な役割を果たすことに寄与する。》
日米同盟はアジア太平洋地域の平和に寄与する、という意味です。しかし、今回の日米首脳会談で合意したことはアジア太平洋地域の分断です。オバマ大統領は軽率にも、尖閣紛争で米国は日米安保条約5条にもとづき軍事行動をとることを表明したのです。
安倍首相がめざしているのは中国との力の対決です。互いに譲らず対立がエスカレートすれば、やがて軍事衝突が起きます。このとき米軍が中国軍と戦うというのです。これをアジア太平洋地域の平和に寄与するというのは烏を鷺と言うがごときことです。
日中対立激化を追求する安倍首相の過激な対外路線をバックアップすることの代償としてオバマ大統領は、日本政府に経済面で譲歩させたのです。
TPPによる日本の農業酪農の破壊を推進した日米両国首脳の罪は重い。
TPP交渉の中身は秘密のベールに包まれたままです。しかし、日本政府が日本の農業と酪農を危機に陥れる米国の完全自由化の要求を基本的に受け入れたことは、ほぼ明らかです。先の選挙における自民党の選挙公約は破棄され、TPPに反対する農民、農業団体の期待は裏切られたことは、ほぼ明らかになりました。
◆対米従属が強まる
日本政府と与党は日米同盟が強化されたと言ってはしゃいでいますが、どう考えても、日米同盟は、日本が米国に従属している関係です。同盟関係が強化されたということは従属関係が深化したことを意味します。日本人の生き方は明治以後は「和魂洋才」と言われましたが、最近の日本人は「米魂米才」と言われるほど日本人の魂が米国に従属するようになっています。「和魂和才」を取り戻す必要があるのではないでしょうか。
【日米共同声明(集団的自衛権に関する部分の抜粋)】
米国は尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する。米国は日米両国間の政策およびインテリジェンスに係わる調整の強化を促進することとなる日本による国家安全保障会議の設置および情報保全のための法的枠組みの策定を評価する。米国は集団的自衛権の行使に関する事項について日本が検討を行っていることを歓迎し、支持する。
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