規制改革会議の農協つぶし2014年5月19日
先週、規制改革会議が農業改革案なるものを出した(資料は本文の下)。その主要部に、農協改革案がある。主な内容をみると、全中は無条件解体、全農は株式会社化、つまり協同組合としての解体である。信用と共済は単協を全国機関の代理店にするという。これは協同組合とは名ばかりで、上意下達の組織であり、株式会社に限りなく近い解体案である。
農協は、いうまでもなく協同組合である。全国でどのように組織しようが農協の勝手である。それなのに、なぜ農業に限って協同組合の全国組織を否定するのか。全く分からない。
農業の協同組合に限って、全国組織に問題があると考えるのなら、問題点を指摘して、よりよい協同組合にするための改革案を示すべきである。農協という民間組織に対する余計なお世話だ、とは言わない。友情ある忠告なら耳を傾けよう。
だが、そうではない。農協に無知な諸氏だけで、問答無用といわんばかりに、威圧的に解体を提案している。これは、改革案ではない。農協つぶしであり、協同組合の全面否定である。これでは、日本は協同組合を法認しない、世界でも稀有な恥ずかしい国になってしまう。
◇
この改革案には、農協の事業を分割して、不効率な事業部門は切り捨てよ、という考えが基底にある。その上で、アメリカ資本に売り渡せ、というのだろう。これは、文字通り効率至上主義であり、悪評の高い市場原理主義である。協同組合は市場原理に反する、と言いたいのだろう。
ここには、なぜ農協が、組合員の必要とする全ての部門をかかえる総合農協になっているのか、という点の無知がある。
◇
日本の農協が、総合農協として形をととのえたのは、太田原高昭教授がいうように、戦後まもなくの時期だった。
当時、占領軍の軍政下にあって、農村の実情に無知な占領軍は、総合農協を否定し、専門農協を押し付けようとした。しかし、当時の農林官僚は、総合農協を主張して譲らなかった。
度重なる交渉の結果、占領軍が折れて総合農協になった。占領軍が主張を取り下げて、被占領国の主張を通したのである。
◇
当時の農林官僚は、それ程までの気骨があった。それは、戦前からの、血と汗のにじむ農民運動に後押しされた農林官僚の、記念すべき輝かしい成果だった、と言っていい。
また、それは世界の民主主義国が、軍国主義国との戦争に勝った直後の時期で、当時のアメリカ民主主義は、まだ健全だった、と言っていい。
そして、それは占領軍と多くの日本国民が目ざす、農村の草の根軍国主義の根絶と、農村民主化の中核としての農協への期待だった。そして、その後、農村は人並みに豊かになった。戦前とは比べものにならない程に豊かになった。
◇
改革案は、こうした歴史を無視し、効率一辺倒の市場原理主義で、総合農協の解体を迫っている。
だが、総合農協を必要とする経済的条件は、いまでも変わらない。経済的強者がのさばる中で、農業者は経済的弱者であることに変わりはない。そして、生産から消費にいたる全ての生活の場面で、強者に対する弱者の抵抗組織である農協を必要にしている。法律もそれを認めている。
こうした農協を解体しよう、というのが改革案である。そのためには、法律の変更が必要になる。その権限は国会にある。
◇
このような法律を国会で成立できるだろうか。
下の表は、昨年の参議院選挙の全国比例区の政党別得票数である。この表の中には農協の組合員数も示した。
農協には969万人の組合員がいる。農協は、第2の政党の得票数よりも多い集票力を、潜在的にもっている。
だから、組合員が一致して、この改革案に反対すれば、法律案は否決されるだろう。もしも賛成すれば、その議員は次の選挙で落選するだろう。
サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙に落ちればタダの人になるのだという。その危険を冒してまで賛成する政治家がどれ程いるだろうか。
規制改革会議の農業改革案は … コチラのリンクから
(前回 日豪EPAの国会批准)
(前々回 反TPP運動が新しい時代を切り拓く)
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