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全中への嵐は去ったが―まだ安心できぬ2014年6月16日

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【森島 賢】

 このひと月、吹き荒れた全中つぶしの嵐は去った。だが、まだ波は高い。
 規制改革会議は、全中の無条件廃止の思いつきを撤回して、存続を認めた。16回も集まって議論を重ねて出した結論を、その後、ひと月も経たないのに、あっさりと、ひっくり返した。無定見、無節操といわれても、しかたがない。
 このひと月の間、農協はねばり強く反対運動を行ってきた。その分だけ、反TPP運動の力をそがれた。そこに、この会議の真の狙いがあったのかも知れない。
 今月初めの2日には、全国の農協の組合長と連合会の会長が緊急に集まって、この案は、断じて受け入れられない、と決議した。全国の組合長の90%が集まったことも異例のことだったし、全国の組合長と会長が緊急に集まったこと自体が前例のないことだった。
 農協は、それほどの切迫感を持っていた。

 農協だけではない。
 この全中つぶしに対して、国内からは、全国の生協など4000万人を抱える団体が、激しく抗議した。
 また、海外からは、10億人の組合員を擁する国際協同組合同盟が、厳しい非難声明を出した。フランスの代表は、日本へ調査団を派遣しよう、と提案した。また、OECD(経済協力開発機構)の場でもこの問題を取り上げよう、との提案もあった。
 国の内外から、このような抗議や非難を浴びたのである。

 それらの結果、思いつきを撤回したのだろう。無定見、無節操というしかない。
 だが、安心はできない。
 規制改革会議は、首相の単なる私的な諮問機関ではない。法律に基づく機関である。それだけに、権力をもっている。協同組合にたいする認識はないし、無定見ではあるが、それだけに、今後も形をかえて、強権的に全中つぶしを画策するだろう。

 思いつきを撤回したとはいえ、考えを改めたわけではない。その考えの根本に、農協を分かっていないことがある。
 新しい、いわゆる農協改革案では、「農協は、重大な危機感をもって…自己改革を実行するよう、強く要請する。」といっている。
 農協が民間団体であることさえ知らないようだ。だから、このような強圧的な提案をするのだろう。
 農協は政府の下部機関ではない。たとえば、東レと同じ民間団体なのである。上の文言の中の「農協」を「東レ」に置き換えたらどうなるか。東レの会長は、余計な口出しはしなくていい、といって苦笑するだけで、相手にしないだろう。そのことが分かっていない。

 それとも、農協を協同組合から外そう、というのだろうか。
 日本の農協は協同組合の模範にすべきもの、という高い評価が国内だけでなく、海外でも定まっている。その中枢部である全中の否定は、協同組合の全面的な否定につながっている。そうした危機感が国内外の協同組合人の間に広がっている。

 規制改革会議の諸氏は、協同組合は否定すべきもので、株式会社こそが完全無欠な組織だ、と思っているフシがある。
 全農の株式会社化、信用、共済の代理店化などの考えは、協同組合の否定に、その根源があると思える。
 また、株式会社に農地の所有を認めたいようだ。これは、台湾、バチカン市国、マルタ騎士団、パレスチナ、クック諸島、ニウエを除く全ての地球上の国が集まる国連で、今年を国際家族農業年にした考えに対する挑戦である。
 こうした考えを、いち早く察知して、世界中の協同組合人たちが、すばやく農協擁護に立ち上がったのである。

 しかし、彼らには、国内外の、この動きを察知する能力がなかった。だから、全中つぶしの提案をしたのだろう。そして撤回したのだろう。
 このようにして、彼らは世界中に恥をさらして、笑いものになった。
 恥をさらした責任を、彼らだけに押し付けるつもりはない。彼らを任命した政治家にこそ究極的な責任がある。だが、そのことを自覚している政治家は、ごく一部にすぎない。
 だから、安心はできない。今後も注意ぶかく監視しなければならない。

 蛇足をつけ加えよう。
 協同組合と株式会社は、同じ民間組織だが、目ざす目的は全く違う。
 協同組合は、世の中を良くすることが目的だが、株式会社はカネ儲けが目的である。
 市場原理主義者の考えでは、株式会社はこの2つの目的を両立できる、という。
 だが、協同組合人は両立できないと考える。格差の拡大による人心の荒廃は、市場原理主義がもたらしたものと考える。協同組合人は、人心の荒廃を認めるわけにはいかない。だから、市場原理主義を否定する。

 いま農協は、こうした全世界的な、歴史的な対立の先頭に立っている。
 それに日本の4000万人の、世界の10億人の協同組合人が、熱い声援を送っている。
 今年を国際家族農業年に決めた地球上の大部分の人たちが、農協を暖かく見守っている。

 

(前回 全中つぶしの暴論

(前々回 全国の生協などが農協つぶしに抗議

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