財界の狙いは農政運動の弱体化だ2014年6月23日
規制改革会議を吹き出し口にした農協つぶしの嵐は一時中断した。このひと月の間、農協は、この嵐に対して全力で立ち向かった。国内外からの力強い支援もあって、嵐は一時中断の状態になった。だが安心はできない。
新聞報道によれば、農林族幹部の森山裕議員が、全中について「もう農政運動はやめたほうがいい」と語ったという(朝日、13日)。
ここに、規制改革会議と、それを隠れみのにした内閣府と財界の、農協つぶしの本当の狙いがあるのではないか。
全中の無条件廃止、という暴論は、さすがに取り下げたが、農協は農政運動を止めよ、という圧力は、これからも続くだろう。
財界と、それを代弁する内閣府は、農協にイラ立っているのだろう。
農協が中心になって、反TPP運動をしているので、アベノミクスの成長戦略が、思うように進まないからである。
巷間での成長戦略に対する評価は芳しくない。アベノミクスの第一の矢の金融緩和への評価はA、第二の矢の財政出動はB、だが第三の矢の成長戦略は落第点のEだという。だからABE(アベ)ノミクスだという(本紙、野沢 聡記者)。
そこで思いついたのが、成長戦略の目玉であるTPPに反対する農協の農政運動を弱体化することである。そのために農協法を変更しようとしている。
いま取りざたされている農協法の変更の論点は、農協の農政運動の司令塔である全中の法的根拠を奪うかどうか、という点である。
内閣府の後藤田正純副大臣は、国会でくりかえし、奪うことを主張している(18日の衆議院農林水産委員会と19日の参議院農林水産委員会での発言)。
◇
太田原高昭教授が指摘するように、農協の農政運動の法的根拠は、農協法にある。
農協法では、「中央会は、組合に関する事項について、行政庁に建議することができる。」(第73条の22の第2項)と規定している。建議という規定は重い。
もちろん全中は、全国の全農協が組織をあげて民主的に決定した事項に基づいて建議する。それは権利である
もちろん行政庁は、不都合だからといって、無視できない。真摯に受け止めねばならない。それは義務である。
これはシンクタンクなどに出来ることではない。法的根拠に基づかない農政連に出来ることでもない。
一部に、全中をシンクタンクにせよ、という意見がある。また、全中は農政運動をやめて農政連に任せよ、という意見もある。これらは、農協の農政運動の弱体化であり、否定につながっている。
◇
農協の建議権の法認は、権力の温情による恩恵ではない。農協運動の歴史のなかで、先人たちの血と汗で、ようやく闘いとった弱者の尊い権利である。
その権利を、これまで農協人たちは、先人たちに恥じぬよう営々と引き継ぎ、守ってきた。そうして、政策や制度を要求してきた。そしていま、TPPに反対している。
だから、オイソレと捨てるわけにはいかない。
だが、後藤田副大臣は、この権利を剥奪して一般社団法人にせよ、と主張している。それが彼の考え抜いた政治信念なのだろう。農協人は、とうてい容認できない。
◇
農協人は争いを好まないので、心やさしく、「政府への陳情」とか「政府への要請」といっているが、法的には「政府への建議権の行使」なのである
もしも、こうした弱者の権利を認めなかったら、戦後の日本社会は、ずい分と違った様相を展開しただろう。農村は激しい政治抗争が絶えなかったろう。農村の民主化はギクシャクしたものになったろう。
農協の権利を剥奪し、無権利な状態にして、ツベコベいわずに黙ってついてこい、というのなら時代錯誤もはなはだしい。農協は政府のTPP交渉に口出しするな、といいたいのだろうが、そうはいかない。
それでは、戦時中の大政翼賛会と同じになる。戦後レジームの云々がこうしたことを狙っているのなら、農協人はこぞって反対するしかない。
◇
農協法を見直して全中の法的根拠を奪う、ということは、こうしたことを意味している。これは、改正ではなく改悪である。
このたくらみを慎重に監視しながら、同時に、これまで通り国民の先頭に立って、生協人たちと共に反TPP運動に邁進し続けねばならぬだろう。
ここで怯んだら、国内の4000万人の生協人と、海外の10億人の協同組合人の、これまでの支援と信頼を失うだろう。
◇
反TPP運動の弱体化が、財界と内閣の当面の目的である。究極の目的は、農協の農政運動の全面的な法的否認である。
そこへ向かう道は、農村の民主主義の圧殺へつづく道である。それは、戦前の日本がたどった、いつか来た道である。許してはならぬ。
(前回 全中への嵐は去ったが―まだ安心できぬ)
(前々回 全中つぶしの暴論)
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