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農業委員会の公選制廃止は農村共同体の破壊だ2014年7月14日

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【森島 賢】

 先月の24日に閣議決定した「規制改革実施計画」では、農業委員会の公選制をやめて、市町村長が選任する選任制に変える、という。その上で、権限を大幅に削る。
 長年の間、財界は農業委員会を目の仇にしてきた。農外資本の株式会社が農地を取得したいとき、農業委員会が邪魔をして、なかなか許可してもらえない、という不満を募らせていた。
 政府は、この圧力に屈して、こうした自由を損なう規制は改革する、と言いだした。

 この「改革」は、農村社会にとって最も本源的な生産手段を農家から剥奪することになる。そうして、農外資本に売り渡すことになる。
 生産手段の所有の形が、社会の形を規定することは、東西の歴史の事実である。この事実は、「改革」によって、農村共同体が根底から破壊されることを示唆している。
 いま、農村共同体は存続の危機に直面しているのである。

 財界は、つぎのように考えている。
 農地を農地として自由に所有して利用し、あるいは、非農地に転用して自由に利用するには、その土地を所有するのがいい。所有権とは、絶対的な支配権である。
 だから、政府に株式会社の自由な農地所有を認めさせるのが、いちばんいい。それが、農業委員会を改革する政府と財界の目的である。

 株式会社は、自由に農地を所有して、勝手気ままに何をしたいのか。
 とりあえず、植物工場を作って野菜生産をするだろう。その建設には潤沢な補助金がもらえる。甘い汁を思う存分に吸える。だが、やがて過当競争で立ちゆかなくなる。
 そうなったら、太陽光発電を始めるだろう。ここも甘い汁が沢山ある。
 野菜工場にしても、太陽光発電にしても、地元の雇用吸収力は建設の時だけで、その後の雇用吸収力は、ほとんどない。
 もしも、それらに失敗すれば、産業廃棄物の捨て場にすればいい。だが、これは地元に貢献しないどころか、迷惑をかける。

 産業廃棄物の捨て場がだめなら、そのままにしておいてもいい。政府は2%のインフレを目ざしているから、毎年2%づつ土地の値上がりが期待できる。
 株式会社はいま、莫大な社内留保金を貯めこんでいる。経営者は、その金を使い、技術革新を起こして利益を追求する、という本来の役割りを果たしていない。労働者の賃金を下げることで利益を追求することしか考えていない。税金を値切ることしか考えていない。
 だから、社内留保金は貯まる一方で、使い道がなく国債を買って、わずか0.5%程度の利回りで運用している。
 それよりも土地を買って、値上がりを期待するほうがいい、と考えている。

 インフレが2%ではおさまらず、超インフレになる危険もある。政府にとって、インフレは膨大な借金を減価する最も手っ取り早い手段だ。犠牲になるのは国民だ。
 株式会社は土地を持っていれば、そうなっても困らない。困らないどころか、土地バブルの再来で大儲けができる。
 株式会社にとって、土地所有は、どう転んでも、いいことづくめだ。そのように考えても不思議はない。

 だが、そうはいかぬ。農家は土地を売らない。農業委員会が、その盾になっている。
 かつて、神谷慶治先生が言ったことがある。先生の地元では「農家が自分の農地の値段を考えるようになったら、その農家はおしまいだ」といわれていると。柴又の寅さんの名セリフが連想される。「それを言っちゃあ、おしまいよ」
 農家は、よほどの事がないかぎり、農地は売らないのである。土地さえあれば、何とかなる。

 農家が、どうしてもお金が必要になって、農地を売る事態になったら、どうするか。
 まず、親戚に買ってもらう。そして、やがて買い戻すことを目標にして頑張る。
 それがだめなら、近所の農家に買ってもらう。
 そのときは、集落の長老に仲に立ってもらう。長老はその集落の知恵者に相談する。集落の「万人が一人のために」すべての叡智を集めて、その農家にとって最善の方法を考える。
 その結果、売らないですませる方法を考えつくかもしれない。そうなれば、その農家は農業を続けられる。売らざるをえなくなっても、やがて買い戻して復帰する方策を考える。
 これが、農村共同体の知恵である。
 その知恵者が、いまは農業委員会の委員になっていて、長老が委員長になっている。

 長老は、集落の総意で決まるものである。そうでなければ長老とはいえない。知恵者も、集落の誰もが認める知恵の持ち主である。ともに、私利私欲は念頭にない。集落の万人の幸せだけを求めている。
 農業委員会の公選制は、それを法的に認めた制度である。先人たちが勝ち取った、戦後農村の民主主義の根幹である。
 公選制をやめて選任制にすれば、集落にとって、よそ者の市町村長が、農業委員を決めることになる。
 それは、農地の所有を狙う株式会社にとって、邪魔者の力が弱くなるので都合がいい。市町村長だけを説得すればいい。農業委員は、任命権者の市町村長に逆らえないからだ。

 農業委員会の選任制の後に、不可分のセットになって続くのは、農地の競売制だろう。集落にとって素性の知れないよそ者の、私利私欲で凝り固まった株式会社に、集落の農地を売り渡すことになる。
 それでは集落の叡智を集めた農村共同体が成り立たない。農村共同体は崩壊する。農村から潤いは消え、砂を噛むような殺伐とした社会になってしまう。
 こうした改悪は、断固として阻止せねばならない。

【追記】
 昨日、滋賀県の知事選挙で、与党が総力で応援した候補者が敗北した。敗因は、安倍晋三首相が唱える「戦後レジームからの脱却」ではないか。
 滋賀県民の多くは、それが戦後の平和主義の否定だけでなく、農業委員会や農協中央会の弱体化など、戦後農村の民主主義の否定だ、と考えたからではないか。

 

(前回 全農の株式会社化は共販を壊す

(前々回 安倍内閣は追い詰められている―ある農協役員より

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