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TPP反対と農村の知識人2014年7月28日

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【森島 賢】

 TPP問題は、盟主アメリカの中間選挙を11月にひかえ、交渉が一時中断の状態にある。
 しかし、あくまでも一時的な中断であって、あきらめた訳ではない。11月を過ぎれば、アメリカは、またしても理不尽な要求を突きつけてくるだろう。
 わが国の政府は、TPP加盟がアベノミクスの成功のかぎをにぎっている、と考えている。だから、反対運動の中心になって日本農業を守ろうとしている農協を標的にして、攻撃を強め、農協の力を弱めようとしている。
 政府のいわゆる農協改革の真の狙いは、そこにある。

 こうした状況のなかで、「TPP加盟への流れは止められない」という意見が、農協関係の匿名読者から本コラムに寄せられた。まず始めに感謝したい。
 公式な意見表明ではないが、こうした意見が、いくつか聞こえてくる。農協関係者の意見なので、農村の人たちへの影響は大きい。だから、ここで取り上げよう。
 一時中断しているいま、そして、やがて再開されると考えられるいま、そうした意見をいうべきではないだろう。
 そこで思い出すのは、丸山真男教授の考えである。教授の考えによれば、次のようになる。

 主題は、戦前の日本の軍国主義である。その草の根ともいうべき、農村の軍国主義が、どのように形成されたか、を問題にする。
 それは、農村の知識層が作り出したものだ、というのが結論である。そして、彼らの戦争責任にまで及ぶ。
 農村の知識層とは、農協の前身の産業組合や農業会の役職員であり、村役場の役職員であり、学校の教師、神官、僧侶たちである。彼らは、新聞を読み、ラジオを聞いて世の中の知識を得る、数少ない人たちだった。
 当時、新聞やラジオは「戦争への流れは止められない」と執拗に言い続けた。それを知識層は無批判に受け入れた。そして、村人たちに説いた。村人たちは、身近にいる彼らを信用しているので、たちまち洗脳されてしまった。
 無批判な知識人は、知識人の名に値しないのだが、この点に気づかない。
 こうしたなかで、「戦争反対」などと言えば「非国民」と後ろ指をさされてしまう。特高警察ににらまれることもあった。
 かくして、「戦争への流れ」は止められなくなり、全国の農村は軍国主義の一色に染まった。そして、全国に広がった。

 戦後、占領軍が最も力を注いだのは、軍需産業の物的な破壊だけでなく、心的には日本の軍国主義の復活を阻止することだった。そうして、3度目の世界大戦を起こさせないことだった。その重点は、軍需産業の主体だった財閥の解体だけでなく、日本の軍国主義を全国の地方で支えた農村の、草の根軍国主義ともいうべきものの撲滅だった。
 農村の民主化は、ここにその目的があった。そのために、農協の創設や農地改革によって地主制から自作農制へ転換し、転換した自作農制を維持するための農地委員会(現在は農業委員会)の創設などを行った。
 農村の民主化によって、草の根軍国主義の経済的基盤である地主制を徹底的に破壊したのである。そして、それは多くの村人からの積極的な支持をえた。
 アベノミクスは、戦後の先人たちの、この農村民主化の成果をくつがえし、財界に農村を売り渡そうとしている。

 TPP問題に戻ろう。ここで考えたいのは、軍国主義の復活ではない。農村の世論形成における、知識人の役割である。
 いま、多くのテレビや新聞は、財界の代理人として「TPP加盟の流れは止められない」という考えを、執拗に流しつづけている。
 こうした中で、農協の役職員のような農村の知識人がなすべきことは、この考えを無批判に受け入れることではない。TPPに加盟すれば、農業と農村が壊滅的な打撃を受けることを、「流れ」に逆らって、頑固に言い続けねばならない。農村の知識人というなら、それが義務だ、ともいえよう。

 農村の知識人が、こうしたマスコミに逆らって「TPP加盟の流れを止めよう」といえば、マスコミからは、戦前のように「非国民」とはいわれないまでも、「改革?」の「抵抗勢力」といわれて非難されるだろう。「既得権益?」にしがみつく「守旧派」と悪口をいわれるだろう。戦前のように、特高警察ではなく、政府からにらまれるだろう。
 農村の知識人が、それとは反対に、マスコミに流されて、「TPP加盟の流れは止められない」といえば、マスコミからは、戦前のように「愛国者」とはいわれないまでも、「さすがは物分りのいい知識人」とほめられるだろう。そして、財界の思う壺にはまり、実際に「TPP加盟の流れは止められな」くなる。財界やマスコミは、彼らの「先見の明」をたたえるだろう。
 しかし、いまの農業者は、彼らと同じように知識をもった、しかし彼らとちがって、自分の頭で考え、鋭い批判力をもった知識人が多い。農業者は彼らを、その意図があるか否かにかかわらず、農業と農村社会を崩壊させる張本人として、厳しく糾弾するだろう。そして、後世の歴史家は、彼らに厳正な審判を下すだろう。


(前回 安倍内閣の歪んだ農業観

(前々回 農業委員会の公選制廃止は農村共同体の破壊だ

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