【コラム・森田実の政治評論】始まった地方の反乱 滋賀県知事選結果を読む2014年8月4日
・待ったかけたバランス感覚
・東京一極集中、地方に苦難増
去る7月13日に行われた滋賀県知事選において、当初大勝と予想されていた自民・公明共同候補の敗北は、滋賀県という県の特殊な政治現象なのか、それとも今後全国に波及する根の深い政治現象なのか、について深く静かな議論が始まっています。
「いつまでも続く不幸というものはない。
じっと我慢するか、勇気を出して追い払うかのいずれかである」
(ロマン・ロラン)
たしかに滋賀県にはいくつかの特異性があります。琵琶湖があります。環境問題が特別の重みをもっています。原発に対する意識は強いです。「卒原発」支持の住民は多いのです。滋賀県住民の環境意識は特別です。また、滋賀県は現状では人口が減少していない数少ない都県の一つです。人口増現象は最近は頭打ちになってきているとはいえ、依然として成長しつつある県の一つです。こうした県民性の地域における選挙では権力分散的な思考が強く作用します。最近の国政選挙において自民党は大勝しました。国政では当分の間、自民党優位の時代は揺るがないとみられていますが、そうした空気に待ったをかけたい意識の持ち主は、滋賀県には少なくないのです。滋賀県民には強いバランス感覚があります。
しかし、私は、今回の7.13滋賀県選挙を動かした主要因は、全国的に起こりつつある静かなる「地方からの反乱」だと思うのです。安倍首相が鳴り物入りで進めてきたアベノミクスの効果は地方には及んでいません。中央だけが栄え、地方には成長の成果は及んでいないのです。地方住民の中には、中央の地方軽視政策への不信が広がっています。
◆待ったかけたバランス感覚
2014年秋から2015年春にかけては、地方選挙の季節です。7.13滋賀県知事選を出発点として、2015年春の統一地方選挙に向かって地方選挙の季節が訪れます。この夏には香川県知事選がありますが、中央政界で注目されているのは10月の福島県知事選と11月の沖縄県知事選です。気の早い選挙研究者の間には、早くも福島県、沖縄県ともに、自民党候補の勝利は絶望的だとの見方が広がっています。自民と公明の選挙協力が行われるとしても、勝利は困難視されています。安倍内閣の強引な集団的自衛権行使容認の閣議決定に対し、公明党支持者の間に不満が広がっています。
2015年になりますと、1月には山梨県知事選があります。この選挙に民主党の現職の衆議院議員の出馬が噂されています。今回の滋賀県知事選においても、民主党の現職衆議院議員が離党して無所属で出馬しましたが、山梨県も同じ形になると予想されています。自民党の強い山梨県ですら自民党候補が当選する確率は低いとみられているのです。
4月には統一地方選が行われます。知事、市長村長、県議会議員、市町村議会議員の選挙が一斉に行われます。市町村合併に伴い、統一地方選の市町村レベルの数はやや少なくなったとはいえ、県レベルの選挙はほとんど変わっていません。
注目されるのは道府県知事選と有力市の市長選ですが、この選挙に野党の有力な国会議員が転身する傾向が強まっています。先の見えない野党の国会議員に見切りをつけて地方政治家に転身する議員が少なくないのです。
率直に言えば、中央政界は当分の間、自民党の独壇場です。野党には出る幕はありません。そこで、有力な野党の国会議員のなかに、県知事、有力市長への転身をはかろうと考える者が増えているのです。滋賀県における三日月大造氏(前民主党衆議院議員)の勝利が、この傾向に拍車をかけているのです。
◆東京一極集中、地方に苦難増
この政治的、経済的、社会的背景を見てみますと、中央と地方の格差が拡大しています。東京一極集中が進行している反面で、地方の苦難は増しています。都市と農村の格差も広がっています。地方の人口減少はさらに深刻化しています。
政治も地方軽視の傾向を強めているように地方からは見えます。
かつて中央政界は自民党、地方は野党という時代がありました。1960年代後半から70年代初期の佐藤栄作内閣の時代です。当時は高度成長の時代でしたが、高度成長の成果は大都市部に集中していました。公害問題も発生し、住民の不満は地方選挙に示されました。有権者は国政選挙では自民党を支持しながら、地方選では反自民候補に投票したのです。
2014年から始まる「地方の反乱」によって、あの佐藤栄作首相時代と似た局面が現れる可能性が高いのです。1970年代、地方の根を失った自民党は大混乱時代を迎えました。同じことが、2020年前後に起こる可能性が高いと思います。滋賀県知事選は「新たな地方からの反乱」の始まりを示すものだ、と私は考えています。集団的自衛権、TPP、政府による規制改革への不満は地方の草の根に大きな広がりを見せています。国民の不満は、これからも地方選に示されることになると思います。
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