自民党農政の誤算と修正2014年8月18日
自民党の中には、農政について2つの流れがある。
1つは、市場型農政というべきもので、市場原理に絶対的な価値をおき、農業に市場原理主義を取り入れようとする農政である。これは財界が要求する農政である。
もう1つは、協同型農政というべきもので、協同に至高の価値をおき、それを助長する農政である。農協が要求するのは、勿論この型の農政である。大多数の組合員、つまり農業者は協同型農政を要求している。
この2つは、ともに相容れない。だが、1つの政党のなかで共存している。そのせめぎ合いのなかで、実際の農政が行われている。
2つの型の農政のせめぎ合いは、選挙が終わり、次の選挙までしばらくの間がある時は、市場型が勢いづく。そして、次の選挙が近づくと、協同型が勢力を挽回して市場型を修正する。こうしてネコの目農政が延々と続く。
以前、中曽根康弘総裁のときからだが、自民党は農村の支持がなくても選挙に勝てる、と信じた時期があった。そうして、市場型農政を押し進めた。だが、それは誤算だった。2009年選挙のときの与野党逆転が、それを証明した。
農村には、市場型農政に反対して、協同型農政を要求する強い政治力があるのだ。どれ程の強さか。
上の地図は、各県の全有権者のなかで、農家の有権者がどれ程の割合を占めているか、を色分けして示したものである。付表はその元の数字である。
ここでいう農家の中には、農水省用語で「土地持ち非農家」といわれる農家を含んでいる。これも農家なのだ。また、20才以上の人を全て有権者とした。なお、全農家の1戸あたり有権者数は、資料がないので、「販売農家」と同じ、と仮定した。
◇
この図表から分かることは、農家の有権者が全有権者に占める割合は、全国で12.7%と多いことである。この割合が、農家の政治力とみていい。
この割合を、県別に詳しくみると、だれもが予想するように、都市部で少なく、農村部で多い。例外は兼業機会の少ない北海道と沖縄だけである。指摘したいのは、このことではない。
ここで指摘したいのは、農村部でのこの割合の大きさである。軒並み20%以上で、30%以上の県が6県もある。
農家には、これだけの政治力があって、市場型農政に反対し、協同型農政を要求している。
◇
この他に、農業関連産業で働いている家にも多数の有権者がいる。さらに、産業としての関連ではなく、農家の消費生活に関連する産業で働いている家にも多数の有権者がいる。彼らも農政に重大な利害関係をもっている。そうして、農家が要求する協同型農政に暖かい共感を持ちながら、農政のゆくえを見守っている。その多くは農村の住民である。
このように、農政は農村の大多数の人びとに対して、強い影響力をもつ重要な政策分野である。農村の支持がなくては、選挙に勝てない。
◇
この夏までは、市場型が優勢な時期だった。絶頂期だった、といってもいい。だが、そろそろ翳りが見え出すだろう。秋から来年にかけて、いくつかの県で知事選があるし、来年の春には統一地方選挙がある。それが終われば、総選挙が近づく。
このまま市場型農政をごり押しすれば、農村の離反は免れない。選挙には勝てない。
TPPで農業を犠牲にする市場型農政を強引に押し進め、また、反TPP運動をしている農協に理不尽な攻撃をすれば、選挙で農村から手痛い反撃を受けるだろう。
この秋から始まる選挙で惨敗したくないなら、こうした市場原理主義農政を転換するしかない。それは、大衆迎合主義ではない。それが民主主義というものである。
(前回 働く人のバカンスを)
(前々回 TPP反対と農村の知識人)
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