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准組合員問題の不毛な政治論2014年8月25日

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【森島 賢】

 農協の准組合員が全組合員の半数を超えたことを、大問題であるかのように、一部の政治家やマスコミが騒ぎ立てている。
 だから農協は「農業」協同組合ではなくなった。「農」の字をとって、「地域」協同組合にせよ、という主張である。
 そうなれば、農協は農協でなくなる。農協法は廃止になる。
 それでいいのか。

 これは、以前から一部の研究者が主張していたことである。それを、最近、一部の政治家が始めた農協批判の主要な焦点にしている。そこには、准組合員が半数を超えた、という理由しかない。その陰に、TPP反対運動の先頭に立っている農協を、痛めつけよう、という魂胆が見えかくれしている。
 研究者が主張する地域協同組合論の根拠も、実態とその分析に基づくものではない。准組合員が過半数になったから、農協法の目的が書いてある第1条から「農」の字を除け、という単純な形式論に過ぎない。
 では、実態はどうか。

 太田原高昭教授によるJAセレサ川崎(神奈川県)の聞きとり調査によれば、この組合の准組合員の実態はつぎの通りである。
 准組合員の多くは、高度成長期以後に農村から川崎へ集団就職で移住してきた人たちである。彼らは故郷の古き良き時代への、ほろ苦さが混じっているかもしれない郷愁をもっている。そして、川崎で農協の看板をみると、つい懐かしくなって、貯金は農協、共済も農協、というようになる。そのために准組合員になるのだという。
 また、彼らの子息も、子供のときから正月やお盆には両親に連れられて、両親の故郷へ行き、従兄弟や従姉妹たちと野山で遊んだ人たちである。だから、農業と農村に格別な親近感をもっている。彼らも成人後にはごく自然ななりゆきのようにして、農協の准組合員になる。
 こうしたことは、都市らしい都市、つまり、日本資本主義の中枢部である京浜工業地帯の川崎の、工場労働者だけにみられる特殊な実態ではないだろう。

 同教授によれば、北海道でも同様で、准組合員の多くは、元は正組合員だったという。正組合員は減ったが、その分は准組合員が増えたので、組合員の総数は減りも増えもせず、ただ准組合員の比率が大きくなったのだという。
 そして、彼らを農協の応援団と位置づけている。農協が強くなることを願って、熱心に応援している。つまり、農協の本来の農業関連事業が、もっと活発になることを願っているのであって、そこから力をぬいて、准組合員のための生活関連事業にもっと力を注げ、などというケチな要求をしているわけではない。
 そんなことをすれば、農協本来の農業関連の活動が不活発になり、農業が衰退してしまう。そんなことになれば、応援団の熱意は冷め、そんな農協に失望し、退団してしまうだろう。
 彼らは、スタンドに座って暖かく見守っているだけで、グランドに出てプレーをしようとは思っていない。つまり、農協の事業に口ばしを入れ、深く関与しようとは思っていない。
 だからといって、農協はアグラをかいている訳ではない。

 JAはだの(神奈川県)のように、ときどき准組合員に集まってもらい、農協の運営についての要望を聞く会を開き、それを活かして生活関連事業を改善しているところもある。だから、彼らは、農協に対して強い不満を持っていない。
 准組合員の実態は以上の通りなので、准組合員が増え、応援団が大きくなることは喜ばしいことで、困ることではない。

 准組合員の農協利用量を制限せよ、という主張もある。これは、農協のこうした実態と歴史を無視した主張である。
 農協の前身である産業組合には、村に住んでいる商工業者も入っていて、農業者だけの協同組合ではなかった。戦後になって、農協法を制定し農業者を中心にしたが、だからといって、農業者以外の人を排除するのではなく、准組合員として処遇した。
 このように、農協は以前から農業関連事業を中心の柱に据え、その上で、それを農業者以外の人たちが協力して盛り立ててきた。
 農協は、このように農村共同体のなかで、地域ぐるみの助け合い組織、つまり、地域ぐるみの協同組合という性格をもっていた。また、消費生活ぐるみの協同組合という性格ももっていた。それが、今でも続いている。
 こうした歴史的ないきさつを無視し、准組合員制度を否定し、農業者以外を排除することは、良き農村共同体への理不尽な挑戦である。それなら、実態に基づく具体的な理由を示さねばならない。

 農協は、「農」の字を守り、農協法に基づく協同組合であり続けねばならない。その第1条でいう「…農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図」る、という目的を守り続けねばならない。そうしなければ、農業を振興し、農業者の地位を向上することを目的にする協同組合は、日本からなくなってしまう。
 准組合員制度が、この目的を阻害していると主張するのなら、そのことの実態に基づいた論拠を具体的に示すべきである。
 最後に、もう1つ言っておきたい。
 この議論を深めるためには、准組合員の全国的な実態調査が必要になる。准組合員は、どんな特性を持っているか。農協にどんな不満を持っているか。正組合員にせよ、と要求している准組合員が、どこにどれ程いるか。等々。それがないと、浮薄で不毛な政治議論になってしまう。
 これを明らかにするのは、研究者の責任でもある。


(前回 自民党農政の誤算と修正

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