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政府の農協改革案の破壊力2014年9月1日

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【森島 賢】

 政府が閣議決定した「規制改革実施計画」の中の農協改革案は、強烈な破壊力をもつ爆弾が、あちこちに仕掛けられている。
 政府は農協に対して、この案を早急に検討せよ、と要求している。そして、来年早々から始まる国会に法律案を提出して成立させるという。
 いまなぜ、そんなに慌てふためいて農協改革を急ぐのか。それは、いま中断しているTPP交渉の再開に備えて、TPPに反対している農協を痛めつけることが狙いである。
 TPPと、いわゆる規制改革は、アベノミクスの成長戦略の主要な柱なのである。
 ここで、この農協改革案のうちの重要なものを取り上げて検討しよう。いずれもが、農協を破壊する強烈な力を持っている。
 この案は、地方から湧き起こる反対の力を、全中などの全国機関がまとめ上げた総力戦で、葬り去らねばならぬ。
 そうして、先人たちが何世代にもわたって築き上げた、世界に誇る農協を、後世に引き継がねばならぬ。

 この政府案は、市場原理主義者が集まっている規制改革会議の、第2次答申を土台にしている。さすがに答申の丸呑みではないが、「小骨は抜いたが大骨は残した」と評されるように、市場原理主義の考えが、この案を貫いている。
 そして、農協の存続を否定し、普通の会社すべきだ、と考えている。これは、農協法第8条の「組合は、………営利を目的として………はならない。」とする条文の削除である。

 これは、農協の協同組合としての存在の否定である。協同組合は営利を目的にしない、という大原則の否定である。
 彼らの主張を聞いてみよう。いまや、農協は強大な販売力を持っている。それなのに、独禁法の適用除外という既得権をもっている。そうして競争相手に対して優位に立っている。これは不公平だ。だから、普通の会社のように独禁法を適用せよ、と主張している。
 もしも、そうなれば、共販は違法になる。共販だからこそ販売力をもっていることが、彼らには分かっていない。
 共販の否定は、経済的弱者の集まりである協同組合の、根本の否定である。そんな野蛮な国は世界中のどこにもない。

 それに続くのは、総合農協の否定である。
 信用・共済部門を分離せよ、という主張にみられるように、総合農協を部門ごとに、いわば分社化して、採算がとれる分社は、高値で売り飛ばそう、というのである。売り先は多国籍企業だろう。
 採算が取れない分社だけが農協に残り、やがて農協は破産して消滅するだろう。
 トクをするのは無国籍企業と、そのおこぼれを頂戴する企業で、困るのは農業者をはじめとする農村の人たちである。

 農協は、TPP反対などという政治活動から手を引き、経済活動などに専念せよ、というのが中央会の否定である。
 全中や県中、つまり中央会を否定することは、農協法の第22条2項で「中央会は、………行政庁に建議することができる。」と認められている建議権の否定である。権力にとって、建議などをされることは迷惑なのだろう。
 だが、これは経済的弱者の権利の否定であり、民主主義の否定である。とうてい容認できない。

 TPP反対などという建議をするな、といいたいのだろう。
 だが、もしもTPPを容認すれば、海外の農産物が津波のように日本に襲いかかり、農村を飲み込んで、その跡を荒野にしてしまうだろう。
 そうなってもいいから、防波堤にTPPという名前のドリルで穴を開けて、津波の蹂躙に任せよう、というのがアベノミクスである。
 農協は、それに反対し、組合員の総意に基づいて、TPP反対を建議しているのである。

 農協の存在を名実ともに否定するのが、農協を地域協同組合にせよ、という主張である。究極的な農協つぶしである。
 農協法から「農」の字をなくそう、というものである。それをなくせば、農協法は農協法ではなくなる。つまり、農協法の廃止になる。
 理由は何か。

 それに関係する唯1つの事実は、農協組合員の半数以上が准組合員だ、という実態である。だが、この事実は農協を地域協同組合にせよ、という主張の理由に結びついていない。
 准組合員は、農協法の第16条で「………議決権及び選挙権を有しない。」と規定されている。だからこそ「准」組合員なのである。それは不当な差別ではないし、不正義でもない。会員を正会員と准会員とに分ける組織は、どこにでもある。
 筆者の知るかぎり、そのことが不満だ、と考える准組合員がいる、という事実は聞いたことがない。
 准組合員が過半数になったからといって、その過半数の准組合員が農協に対して、解決できないような強い不満をもっている、という事実を聞いたことがない。どの農協も准組合員の不満に耳を傾けて、そのつど不満を解消しているのが事実である。
 また、准組合員が、農協を地域協同組合にせよ、と主張している事実も聞いたことがない。

 農協を地域協同組合にせよ、と主張するのなら、頭の中の幻想や憶測を理由にするのではなく、客観的な事実に基づく理由を示さねばならない。
 農協が農協であり続けることによって、実際に、どこで、だれが、どんな不利益を、どれほど受けているか。どんな不満を持っているか。
 農協がなくなり、地域協同組合になることによって、実際に利益を得るのは誰か。もちろん農業者ではないし、農村の人たちでもない。財界の一部だけだろう。
 農協法の実質的な廃止につながる農協法「改正」は近い。事態は急を告げている。


(前回 准組合員問題の不毛な政治論

(前々回 自民党農政の誤算と修正

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