農政の潮目が変わる2014年9月8日
農水省は、米価の下落に備えて所得を補填する、いわゆるナラシ対策を急に見直すことにしたという。日本農業新聞が、9月2日の1面トップで伝えている。農水省は、そのための予算を概算要求に入れた。
見直しの内容は、小規模農家もこの対策の対象にする、というものである。しかも、2014年産は農家の拠出金なしでもいいという。
この見直しは、いままでの農政の潮流を変えるものである。夏までの市場型農政から、秋からの協同型農政へ、その潮目を変えるものである。これは歓迎すべきことである。
市場型農政とは、市場原理主義に基づいて、小規模農家を切り捨てる農政である。小規模農家が協同して市場に臨むことは、自由な市場競争を歪める、というわけである。競争力が弱い小規模農家を「温存」してはならぬ、農業をやめろ、市場から出てゆけ、という農政である。実は、小規模農家が協同すれば、大規模農家より強い。だから、市場原理主義者は協同を嫌う。
これに対して、協同型農政とは、小規模農家は市場では経済的弱者だから、たがいに協同し、助け合って経済的強者に立ち向かう協同活動を認め、それを助長する農政である。「万人は1人のために」という農政である。
この2つの型の農政は、小規模農家の評価について、たがいに相容れない。
◇
これまでの自民党の市場型農政は、こうした小規模農家のための協同型農政を否定してきた。協同型農政は、構造改革に逆行するものだ、選挙めあてのバラマキだ、などと言って批判してきた。ことに野党時代は、民主党の協同型農政を、ここに焦点を当てて、激しく批判してきた。
しかし、秋からは県知事選挙があるし、来春には統一地方選挙がある。これらの選挙に勝つには、市場型農政に固執できない、と考えたのだろう。節を曲げてでも、市場型農政から協同型農政に切り替えて、勝たねばならぬ、と考えたのに違いない。看板にしている「地方創生」どころか、「地方の反乱」をおそれているのだろう。
それ程までに、市場型農政は評判が悪いのである。だから、節を曲げて節を正すことは、いいことだ。政治家は、たえず選挙を気にしなければならない。民主主義のいい点は、ここにある。
◇
選挙前に、農政の潮目を変えることは、以前にもあった。
2009年の与野党逆転の総選挙の前が、そうだった。総選挙の前年に、政府は米価補償の対象を小規模農家にまで広げた。つまり、それまでの市場型農政から協同型農政に切り替えた。しかし、あの時は間に合わなかった。その結果、自民党は大敗し、政権を失った。
それを教訓にして、こんどは早めに切り替えたのだろう。
◇
潮目を変えさせた力の源泉は、どこにあったか。
それは、いうまでもなく農業者の力である。農業者が全中に結束して市場型農政を批判し、協同型農政を要求したからである。そうした農政運動の先頭に、全中が立っている。
◇
その全中が、いま存廃の危機にある。全中の農政運動を法的に否認しよう、というのである。農協法第73条の22項で定められた、中央会の建議権の剥奪である。来年早々から始まる国会に、その法律案を提出するという。事態は切迫している。
いま、全中会長や県中会長には、農協組合員の総意を、農水大臣や知事に伝える権利がある。それは、農協法に基づく重要な権利である。
だが、もしもこの法律案が成立し、この権利を剥奪されれば、農水大臣や知事に門前払いを食わされても、法律的な問題にならなくなる。
実際には、門前払いはしないかも知れない。しかし、農協の代表の法律的、制度的な地位が、そこまで落とされるのである。そんなことは、全力で阻止しなければならない。
(前回 政府の農協改革案の破壊力)
(前々回 准組合員問題の不毛な政治論)
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