農業者を愚弄する所得倍増計画2014年10月14日
政府は、農政の最も重要な柱に所得倍増計画を据えた。
6月の公式文書(資料は本文の下)では、「農業・農村全体の所得を今後10年間で倍増させる」といっている。だが、いったい誰の所得を倍増させるのか。それがあいまいである。
その後、西川公也農水相は、農家所得の倍増といっているようだ。だが、どのようにして倍増するのか、具体策がない。
所得倍増と聞けば、わが家の所得が2倍になると思ってしまう。そうして、倍増計画という耳ざわりのいい言葉だけが、一人歩きしてしまう。農業者を愚弄する悪質な計画といわねばならない。
梶井功教授が、厳しく批判しているのは、農村所得の倍増計画についてである。いまの農村所得は何円で、それを10年後に何円にする計画なのか、が明らかでない、という批判である。つまり、具体的な計画になっていない、という批判である。
この批判は、農村の範囲をどう決めるか、また、属人的な所得、つまり村民所得なのか、属地的な所得、つまり村内所得なのか不明確だ、という批判に続く。
◇
農業所得の倍増計画にも、大きな問題がある。
政府は、いわゆる6次産業化に力を入れようとしている。その結果、かりに6次産業化で、農村の第2次や第3次産業の所得が増えても、第1次産業の農業の所得が増えるわけではない。つまり、6次産業化は、農業所得の倍増計画とは関係ない。
農業所得の倍増というなら、いままでの農政の大転換が必要になる。その覚悟があるのか、不明である。
◇
そこで考えついたのが、農家所得の倍増なのだろう。歓迎すべきことである。
農家所得なら、資料があるし、具体的な計画を検討できる。
さっそく下の表をみてみよう。過去9年間の農家所得と、その内訳の推移である。
この表から分かるように、過去9年間、農家所得は増えていない。内訳をみると、農外所得が減った分だけ年金等が増えた。農業所得は横ばいである。
こうした状態のなかで、どの所得をどれだけ増やして、合計の農家所得を10年間で2倍にする計画なのだろうか。
◇
農家所得を内訳ごとにみてみよう。
農家所得の低迷は、農外所得の減少にその主因がある。兼業収入が減少したのだが、これは、地方経済が衰退したからである。これに歯止めをかけねばならない。
農水相は、農村地域工業(等)導入促進法の活用を考えている。導入する工業は農業関連の業種に限定するようだ。6次産業化にこだわっているのだろう。だが、それでは限界がある。そうした限定をするのではなく、最先端の業種も含めて農村へ導入することで、農家の兼業機会を飛躍的に増やすべきだろう。
もしも、そのように考えているのなら、さっそく具体的に検討すべきである。
◇
農家所得の倍増をいうのなら、主業である農業所得の倍増を計るのが王道である。だが、実際には逆の政策を行っている。TPPなどの輸入自由化をはじめとする市場原理主義政策である。この政策を大転換しなければ、農業所得の倍増は不可能だ。
だが、この政策を大転換し、国内農業の再興を計る政策に立ち返れば、農業所得の倍増は充分に可能だ。いまの食糧自給率は39%だから、これを2倍の78%にすればいい。輸入している飼料穀物を、国産米の飼料化で代替すればいい。
そうした農政の大転換の覚悟が、いま問われている。そうした覚悟がない、口先だけの所得倍増計画は、絵に描いた餅というだけでない。農村の現場で苦闘している農業者を愚弄するものと言わねばならない。
資料は、首相官邸「農林水産業・地域の活力創造プラン」(2014.06.24改訂)より
(前回 米価下落でほくそ笑む人たち)
(前々回 TPPは悪政の根源)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(130)-改正食料・農業・農村基本法(16)-2025年2月22日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(47)【防除学習帖】第286回2025年2月22日
-
農薬の正しい使い方(20)【今さら聞けない営農情報】第286回2025年2月22日
-
全76レシピ『JA全農さんと考えた 地味弁』宝島社から25日発売2025年2月21日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付)2025年2月21日
-
農林中金 新理事長に北林氏 4月1日新体制2025年2月21日
-
大分いちご果実品評会・即売会開催 大分県いちご販売強化対策協議会2025年2月21日
-
大分県内の大型量販店で「甘太くんロードショー」開催 JAおおいた2025年2月21日
-
JAいわて平泉産「いちごフェア」を開催 みのるダイニング2025年2月21日
-
JA新いわて産「寒じめほうれんそう」予約受付中 JAタウン「いわて純情セレクト」2025年2月21日
-
「あきたフレッシュ大使」募集中! あきた園芸戦略対策協議会2025年2月21日
-
「eat AKITA プロジェクト」キックオフイベントを開催 JA全農あきた2025年2月21日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付、6月26日付)2025年2月21日
-
農業の構造改革に貢献できる組織に 江藤農相が農中に期待2025年2月21日
-
米の過去最高値 目詰まりの証左 米自体は間違いなくある 江藤農相2025年2月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】有明海漁業の危機~既存漁家の排除ありき2025年2月21日
-
村・町に続く中小都市そして大都市の過疎(?)化【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第329回2025年2月21日
-
(423)訪日外国人の行動とコメ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年2月21日
-
【次期酪肉近論議】畜産部会、飼料自給へ 課題噴出戸数減で経営安定対策も不十分2025年2月21日
-
「消えた米21万トン」どこに フリマへの出品も物議 備蓄米放出で米価は2025年2月21日