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農協批判にみるマスコミの戦前回帰2014年10月27日

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【森島 賢】

 安倍晋三首相の政治信条の中心にあるのは、「戦後レジームからの脱却」である。
 戦後体制から脱却して、どこへ行こうとしているのか。憲法9条の廃棄の主張や偏った歴史観をみると、それは戦前への回帰としか思えない。
 農政でもそうだ。過去60年間、農協は既得権益にしがみついて、農業者の自由な活動を規制してきたという。だから、いまこそこの規制にドリルで穴をあけて破壊する、と息巻いている。
 ここで言いたいことは、これに反論することではない。大新聞やテレビが、財界や政府の、こうした事実に基づかない主張をそのまま報道して同調し、反対論者の主張を圧殺していることである。
 ここには、戦中、戦前に、新聞が大本営陸海軍部の発表をそのまま報道し、戦争を賛美したことに対する反省が全くない。

 かつて、丸山真男教授が指摘したことだが、戦前の農村には、草の根ファシズムがあった。農村にいた擬似インテリ層が戦争を美化していた、というのである。農村の擬似インテリと侮蔑的にいう階層とは、小地主や役場の役職員や下級官吏であり、学校の教師や神主や僧侶だという。産業組合の役職員も含まれているのだろう。
 そうした現象は、確かにあった。だが、教授はこの現象の整理にとどまっていて、そうなった社会状況について語っていない。現象論にとどまり、そこで思考を停止して、その先にある本質論に迫っていない。これでは、知性の浅薄さを指摘せざるをえない。
 語るべきは、農村の真正インテリたちが、主戦論と反戦論の両方を聞いた上で自分の頭で考える、という機会を奪われていたことである。その機会は、新聞が提供すべきだった。だが、そうしなかった。激しい言論弾圧があったからである。民主主義の根幹である言論の自由が圧殺されていたからである。
 その結果、自分たちの村の大勢の若者や教え子が、戦場へ行かされて死んだ。村のインテリで、自分の責任を痛恨の極みとして受けとめ、戦後、精神が不調になる人が少なくなかった。

 

 

 ここで強調したいのは、過去の新聞の戦争賛美を責めることではない。弾圧があったからといって免罪することでもない。いまでも大新聞やテレビなどのマスコミが、戦前への反省もなく、言論の自由を放棄していることである。
 農政分野の報道をみると、財界や政府の発表をそのまま無批判に報道し、同調している。ちょうど、大本営の発表をそのまま報道し、主戦論を唱えていたのと同じである。
 いまは言論弾圧はないというが、そうではない。かつて、軍部と政府は天皇を錦の御旗にして、言論を暴力的な、つまり法的な強制で弾圧した。だが、いまは暴力をむき出しにした法的強制ではなく、国益という名目で、実は財界の利益を錦の御旗にした経済的強制で弾圧している。財界の意にそわない報道をすれば、その新聞には広告を出さない、という経済的圧力である。そうなれば、その新聞は経営的に成り立たなくなる。だから、屈服せざるを得ない。
 このように、昔は主に法的強制、今は経済的強制という違いはあるが、ともにマスコミに対する強制であり、言論の弾圧であることに変わりはない。

 

 

 では、マスコミはどうすればいいか。
 それは、「事実をもって語らしめる」という原則を堅持することである。事実はだれもが否定できない。そうして、いまの財界と政府の農協批判が事実に基づいていないことを、白日のもとにさらけ出すことである。
 それに加えて、財界の言論弾圧を排除し、財界の意に反する主張、たとえば、反TPPの主張も自由に掲載できるように脱皮することである。財界のくびきを断つ以外に言論の自由はない。
 そうして、どの主張が99%の人たちの利益になり、どの主張が1%の人の利益になるかについて、読者が判断できる材料を提供することである。
 言論の自由を守るのは、民主主義を守るためである。民主主義を守るのは、99%の人たちの利益を守るためである。つまり、言論の自由を守るのは、99%の人たち、つまり経済的弱者の利益を守るためである。
 この自明の理を、多くのマスコミは軽視している。その軽さは、戦争前夜よりも軽い。戦前は、99%の側の農村の窮状を救う、という口実を使ったが、いまは国益という口実を使って、1%の財界の利益を、あからさまに追求している。猛省を促したい。

(前回 農協を全面否定する中央会監査の廃止案

(前々回 農業者を愚弄する所得倍増計画

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