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政府の強権的な農協改革2014年11月10日

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【森島 賢】

 先週、全中が自己改革策を取りまとめ、西川公也農水相に説明した。農水相は、「政府の考え方とずれがある」(7日の各TVと8日の各新聞)と不満そうに評価していた。
 また、官邸主導の農政といわれるなか、後ろ盾の菅義偉官房長官も「政府・与党と方向性が合っているか疑問」(7日午後の定例記者会見)といっていた。
 この時期に、なぜ自己改革なのか。それは、政府が要求しているからである。
 なぜ急ぐのか。それは、政府が急がせるからである。
 では、なぜ政府は急がせるのか。それは、反TPP運動の先頭に立っている全中の力を、早く弱めたいからだろう。農協改革を言い出す直前に、政府と与党の幹部は、農協の反TPP運動を激しく非難していた。

 いま、全国の農業者の上には、米価の暴落不安、TPP妥結の不安が重くのしかかっている。先週も北海道(4日)や宮城県(7日)や長野県(7日)など全国の各地で、多くの農業者が集まり、県中などが主催して、米価対策の要求や反TPPの集会が開かれた。
 いま改革をするなら、米価を回復するために、また、反TPPのために、どう改革するかを主題にすべきだ。だが、そうではない。政府は、全中と県中を法的に否認するかどうかを主題にしている。農業者にとって死活的に重要な関心から遠く離れたことを主題にしている。
 大多数の農業者は、全中と県中を農協法が認知していることに、何の疑問も持っていない。

 こうした状況のなかで、政府はどのような自己改革なら満足するのか。
 官房長官は、前記の記者会見のつづきで「政府・与党の方向性と合うように検討していかれることを期待したい」といっている。
 権力者の「期待」にそむいたらどうなるか。これでは自己改革にはならない。強権的な改革の押し付けになる。

 さて、農水相がいう「政府の考え方」とはなにか。それは10月3日の衆議院予算委員会での安倍晋三首相の発言である「農協法に基づく現行の中央会制度は存続しないことになる」を指しているのだろう。
 だが、これは首相だけの考えで、閣議で決めたことではない。全くの私的な考えにすぎない。これを、農水相が勝手に忖度し、「政府の考え方」といっているのだろう。いよいよ首相は独裁色を強めたのだろうか。

 では公式の「政府の考え方」は何か。それは6月24日に閣議決定した「規制改革実施計画」である。
 この中では「農協法上の中央会制度は…自律的な新たな制度に移行する」というだけである。農協法上の中央会を否定してはいない。それは「自律的」に決めることで、だから、この文言の直後に「農協組織系統内での検討も踏まえ…早期に結論を得る」という文言が続いている。
 この文言に従って、農水相は、10月15日の衆議院農林水産委員会で「我々(政府)が一方的に改革の方向性を示していく、こういう考え方はありません」(カッコ内は筆者)と発言していた。

 しかし、実際に全中の自己改革案が出てくると、農水相は豹変し「政府の考え方とずれがある」という。
 ずれがあるのなら、「自律的」というのだから、「政府の考え方」を「一方的」に押し付けるのではなく、「農協組織系統内の検討を踏まえた」全中の自己改革策に「政府の考え方」を近づけるべきである。
 だが、そうしない。官房長官は、権力を笠に着て、逆さまに「(自己改革策が)政府・与党の方向性と合う…ことを期待」(カッコ内は筆者)している。
 「自律的」とは、いったい何だったのか。農業者を、もて遊ぶための言葉だったのか。

 彼らが期待しているのは、全中が「中央会を農協法から抹消してもけっこうです。今後、普通の民間団体に変えて、いっさい政治的な建議はいたしません」ということだろう。だが、そうはいかない。
 全中は政府の下部機関ではない。全国の農業者が、民主的に決めた自己改革策を取り下げて、それとは全く逆の改革をするわけにはいかないだろう。

 


(前回 米価は歴史的な低水準) 

(前々回 農協批判にみるマスコミの戦前回帰) 

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