農林水産物輸出の危うさ2014年12月1日
明日は、いよいよ総選挙が告示され、14日には実施される。
今度の総選挙は、どうも論点がはっきりしない。論点かくしの選挙だ、という人もいる。TPPを隠し、集団的自衛権や沖縄問題、原発再稼働などを隠して、アベノミクスだけを突出させている。そのアベノミクスも、続けるか、中止するか、という浮ついた議論になっていて、具体的な争点が噛み合っていない。
ここでは、農政でのアベノミクスの最重要な課題である、農林水産物の輸出戦略を、実態に即して考えよう。
与党の自民党と政府は、輸出額を、いまの5500億円から、6年後の2020年には1兆円に倍増させる、と強気である。超強気論者は、2020年よりも早く倍増せよ、と息巻いている。
アベノミクスは、第3の矢の規制改革でつまずいていて、先へ進んでいない、という批判がある。
農業には、岩盤のように強固な規制があって、改革が進まない。だから、ドリルで穴をあけるのだ、という。
規制改革をして、何をするのか。人口が減少する状況だから、農林水産物の国内需要の拡大は望めない、という。米を飼料にし、米粉にすれば、大量の需要が国内にあるのだが、それを無視する。そうして、輸出戦略を考えている。
輸入国には、さまざまな規制がある。だから、TPPに加盟して、輸入規制を撤廃させ、経済成長で大量の需要が見込まれるアジアに輸出しよう、という。
また、国内では、農協が規制をしているので、輸出を拡大できない、と事実でないことをいう。この幻に基づいて、農協を弱体化し、農外企業に農業を任せ、膨大な需要があるアジアに、大量の農林水産物を輸出しよう、というわけである。そうすれば、日本の農業は成長産業になる、とまでいっている。
そこで、輸出の実態をみてみよう。下の図である。
この図で分かるように、最近の2年は、たしかに輸出が増えている。もしも、この勢いで増える、と仮定すれば、2020年には1兆円を超えるだろう。
しかし、仮にそうなったとして、手放しで喜んでいいことだろうか。問題は、いくつかある。
◇
図の中には、円ドルレートも描かれている。これをみると、最近の5年は、輸出金額と円ドルレートが平行して推移している。このことは、輸出金額を国際的な基軸通貨のドルで換算すると、ほとんど増えていないことを意味している。つまり、輸出金額が増えたのは円安による、と考えられる。
円安は、たしかに輸出にとっては有利である。だが、国益になるか。
かつて、アメリカの高官が「強いドルはアメリカの力の象徴であり、力の源泉だ。だからドル高を堅持する」といったことがある。
かりに、輸出額が円評価で2倍になったとしても、円の価値が半分になってしまっていいのか。それが国益か。それが問題である。
◇
米を増産し、平時には輸出しておき、危急のときは輸出を禁止し、それを輸入小麦などに代えて国内で消費すればいい、という考えがある。食糧安保の考えであり、食料自給率向上の戦略と言いたいのだろう。日本の米は旨いから大量に輸出できる、と思い込んでいる。
しかし実績をみると、2013年の米の輸出金額は、僅か18億円で、農林水産物の輸出総額の5505億円の0.33%にすぎない。食糧安保の点からみて、焼け石に水というしかない。この実績がこの戦略を否定している。
◇
また、農業も製造業と同じように、外需に依存するのか、という批判がある。
農産物の輸出戦略は、以前から「攻めの農政」と名づけて農政の柱にしてきた。しかし、いまだに成果を得ていない。
円安に依存し、外需に依存するのではなく、もっと国内需要を掘り起こすべきではないか。国内には飼料米や米粉など大量の需要がある。
アベノミクスは、いま内需の不振に喘いでいるのだ。
◇
さらに、輸出先の国の農業者の苦悩を考えるべきだろう。
立場を逆転して考えよう。戦後、日本の農業者は小麦やバナナ、カンキツや牛肉など、大量の輸入農産物で深刻な苦悩を味わされてきた。こうした日本の農政は、国内農業の発展を阻害し、歪めてきた。それを忘れて、こんどはアジアの農業者を苦しめ、アジアの農業発展を妨げるのだろうか。
アジア農業との共存を無視するのでは、TPPを後ろ盾にした経済侵略と見られてもしかたない。アジアは69年前までの日本の侵略を、いまだに忘れていない。
◇
アジアの友人たちが、日本の旨い果物などを輸入して、喜んで食べるのならいい。いっしょに喜びたいし、誇らしくも思う。だが、アジアの農業者を苦しめるような輸出には問題がある。
農林水産物輸出の拡大には、節度が求められるのである。
(前回 晴れのち嵐の農政)
(前々回 規制改革会議の支離滅裂な中央会攻撃)
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