【コラム・森田実の政治評論】12.14総選挙の課題と展望2014年12月2日
・衆院解散の大義は?
・権力の乱用
・問われるのは安倍政治のすべて
・日本政治の岐路
安倍首相は2014年内の衆院解散・総選挙という大きな賭けに出ました。この賭けが吉と出るか凶と出るかは12月14日の投開票により証明されます。
「人間の一生に賭けをしてはならない時が二度ある。
それをする余裕のない時と余裕のある時である」(マーク・トゥエイン)
◆衆院解散の大義は?
衆議院議員の任期は4年です。その衆議院議員の任期を2年以上残した今の時点で全衆議院議員の身分を奪う解散には、それだけの大きな理由と大義名分がなければなりません。安倍首相は、消費税を2015年10月から現行の8%を10%に引き上げる時期を1年半延期することとアベノミクスの是非について国民に信を問う、としています。しかし国民の納得が得られているとは言えません。巷に「なぜ? いま解散か?」「大義名分がない」の声が溢れています。総選挙では「安倍政治」の審判をするとの声が広がっています。
◆権力の乱用
今回の衆議院解散の法的根拠は天皇の国事行為を定めた憲法第7条です。条文は次のとおりです(五~十は略)。
《天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。》
憲法が制定された頃は、この天皇の国事行為は儀礼的な行為に限られると解釈されていました。それは憲法第4条が「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する機能を有しない」と規定しているからです。衆議院解散については、憲法第69条の規定があります。条文は次のとおりです。
「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職しなければならない」
日本国憲法が制定された当初は、内閣の衆議院解散権は内閣信任案の可決または内閣信任案の否決に限られると解釈されていました。この憲法解釈を無視したのが吉田茂内閣による1952(昭和27)年8月の臨時国会開会の2日目に抜き打ち的に行った衆議院解散でした。法的根拠としたのが第7条でした。この総選挙は憲法違反ではないかとの議論があり、最高裁の判断が求められましたが、最高裁は裁判所としての判断を回避しました。国会が判断すべきものとしたのです。この結果、違憲論はしりぞけられ、第7条による内閣の解散権の行為が恒常化しました。これによって保守の長期政権が実現したのです。同時に、首相の国会に対する優位性が確立しました。この結果、憲法第41条の「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」との規定は空文化しました。私は第7条解散は違憲だと思っていますが、百歩譲って合憲と認めるにしても、首相の個人的政治的意図にもとづく平時における解散は慎むべきことだと思っています。
最近はマスコミまでが、首相による衆議院解散には制約なしとの解釈をとっています。マスコミが、首相の衆議院解散権の自由な行為を承認し、支持しているのはマスコミの堕落です。いまでは、マスコミは内閣の解散権と言わずに首相の解散権という言い方で、あたかも解散権が首相一人にあるかのような報道していますが、これは行き過ぎです。
国民の中に、今回の安倍首相の強引な衆議院解散について強い批判があります。安倍首相が政治権力の強化を自己目的化しているとの批判は無視できないと思います。
◆問われるのは安倍政治のすべて
安倍首相はアベノミクスの是非が総選挙の主題だと主張していますが、国民は安倍政治のすべてを審判する方向へ動いています。
第一次安倍内閣時代に安倍首相が政権の主要スローガンとして示したのが「戦後レジームからの脱却」でした。1980年代の中曽根首相は「戦後政治の総決算」を主要スローガンとし打ち出しました。安倍首相は中曽根首相と同じ方向を示したのです。具体的には、日本国憲法の改正によってポツダム宣言受諾で始まったが第二次大戦後の日本のあり方を根本的に変革しようという政治姿勢です。安倍政治革命というべきものです。
しかし、この安倍首相の主張は、「政治は生活」という政治スローガンを掲げた民主党に敗北しました。2007年7月末の参院選で大敗北を喫し、退陣に追い込まれました。
第二次内閣を組織した安倍首相はこの教訓に学んで経済重視を打ち出しました。これがアベノミクスです。デフレ不況からの脱却をめざすアベノミクスは国民から支持され、安倍内閣は高い支持率を得ました。安倍首相のリーダーシップは高まりました。
ところが、安倍首相はアベノミクスで得た強いリーダーシップを、安倍首相の本来の主張の「戦後レジームからの脱却」の推進に使いました。その第一歩が、2013年秋の日本型安全保障会議設置法と特定秘密保護法の制定、さらに2014年前半に取り組んだ集団的自衛権行使容認への憲法解釈の変更でした。同時に、武器輸出3原則の修正、TPPへの参加、防衛費拡大、原発再稼働、中国・韓国など近隣諸国への強硬外交などの強権的政策を推進してきました。アベノミクスは安倍首相の鎧を覆う衣の役割を果たしたのです。
安倍首相はかげりの見え始めたアベノミクスに強い力を与えることを目的に衆議院を解散し国民の信を問うことにし、総選挙の争点を「アベノミクスの是非」にしました。しかし国民は、これを素直に受け取っていません。多くの国民はアベノミクスという衣の下の鎧を見ているのです。安倍内閣が示す総選挙の争点と国民の考える争点は違います。国民は安倍内閣の存在自体を「争点」と考えたのです。国民は地方を大切にし、農業を守れ、貧困層を大事にせよ、と主張し、安倍政治の全体の審判の方向に動くでしょう。
◆日本政治の岐路
2014年12月14日の衆議院議員選挙は後世の歴史家によって「戦後政治の分水嶺だった」と記録されるかもしれないほど重要な歴史的選挙です。
三つの結果が予想されます。第一は、安倍首相の狙いどおりの結果が出て、安倍政治革命への大行進が始まることです。第二は、安倍首相が敗北し、退陣に追い込まれ、安倍政治が挫折することです。第三は、この二つの事態の中間的状況になることです。つまり、弱体化した安倍政治が継続することです。私は第三になる可能性が高いと予想していますが、決めるのは国民です。野党陣営が団結できれば第二の道も起こるかもしれません。
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