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神を信じた人も、信じなかった人も2015年2月2日

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【森島 賢】

 公明党の井上義久幹事長が、先週末の記者会見で「農協監査の廃止ありきではなく、実態に即した議論を丁寧にしなければいけない」と発言した。西川公也農水相の農協改革案が、実態から遊離した提案であり、性急な強権的提案であることを、厳しく批判した発言である。
 与党の一翼を担う公明党のナンバー2の、公式な発言だけに重い。農水相の農協改革案の柱を、そして、アベノミクスの成長戦略の基礎を、与党の内部から揺らしたのである。
 公明党は、創価学会の会員である宗教者が多いという。幹事長は、農水相案の、あまりの非道さに対して、宗教者として黙っていられなかったのだろう。農業問題に対する公明党の透徹した見解として、歴史に燦然と光り輝くに違いない。
 表題は、フランスの詩人のルイ・アラゴンの詩で、宗教者たちが、無神論者と協同して、反ナチス運動に立ち上がったことを讃えた詩の冒頭部分である。

 さて、協同組合運動をみると、その中には、宗教者もいるし無神論者もいる。協同組合は宗教や思想信条を問わない。資本主義の横暴に立ち向かうという1点で協同している。農協も同じである。
 幹事長の発言は、公明党やその支持者のなかに農協運動に共感する宗教者が多いことを、世間に広く知らせた。この発言への共感は、全国に広がっている。

 農水相は、いわゆる農協改革の目的は、農業者の所得の増大だ、と考えている。そうした発言を繰り返している。だが、農協法によれば、農協は農業者の経済的社会的地位の向上に、その目的がある。農水相は、この崇高な目的を、独断で所得の増大に矮小化している。
 農業者の経済的社会的地位の向上、という社会正義の実現ではなく、農業者の所得、という私利私欲の追及だ、というのである。そう言って開き直り、そのように農協法を改悪しよう、とさえしている。
 これは以前、石原伸晃元環境相が、原発から出る放射性廃棄物の貯蔵場問題で「最後はカネメでしょう」と発言したのと同じ考えである。
 2人の発言は、ともに人間としての心の問題に深く関わっている。人間としての誇りを無残に踏みにじる発言である。それを、公明党の宗教者たちが鋭敏に感じ取ったのかもしれない。政治家としての心根の卑しさ、という疑いを感じたのかもしれない。

 あらためて言っておこう。いまの農協改革の焦点は、農業者の所得増大のために、中央会の農協監査を農協法から削除して、公認会計士に任せる、という農水相案である。
 だが、中央会監査をやめれば、なぜ農業者の所得が増大するのか、説明がない。だから、幹事長が「実態に即した議論を丁寧にしなければいけない」と発言したのだろう。
 「実態に即した議論」をすれば、農業者の所得増大さえできないことが分かるだろう。そうした因果関係がないからである。まして、農業者の経済的社会的地位の向上はできない。

 幹事長の考えは、もう1つの与党である自民党のなかにも広がっている。多くの野党のなかにも広がっている。
 しかし、いくつかの少数政党を除いて、各党とも批判派でまとまっているわけではない。推進派が混在している。
 政府は、この論点をアベノミクスの成否を握る第3の矢の決戦場に選んだ。農水相を先鋒にし、農協改革を、そして中央会の農協監査を、准組合員の利用制限とともに主要な論点にして、雌雄を決める戦いを挑んできた。
 だが、政府に勝ち目はない。幹事長がいうように「実態に則した議論」をすれば、勝ちは望めない。
 窮した政府が取る手段は、「実態に則した議論」を拒否し、強権を発動して農協法を改悪するしかない。
 だが、アベノミクスの第3の矢は、第1の矢や第2の矢と違って、強権が効かない分野である。実態を無視した強権の発動は、必ず失敗する。その失敗は、安倍晋三政権のいのち取りになる。

 農水相案を阻止するには、与党と野党のなかに混在する批判派を糾合するしかない。
 これは、市場経済に全幅の信頼をおき、経済格差を是認する市場原理派と、市場の横暴を矯正し、公正な社会を目指す協同組合派との、歴史的な激しい攻防になる。
 これからの政治家は、所属する党派の如何にかかわらず、一人ひとりの発言が歴史に記録されるだろう。そうして、次の選挙で国民から厳正な審判を受けるだろう。

 そうしている一方で、政府はTPP秘密交渉を、国民に隠れて、こっそりと進めているようだ。そして、陰で少しづつ洩らし、全身の神経を集めて、国民の反応を注意ぶかく窺がっている。
 農協はいま、TPPと農協攻撃の二正面作戦を強いられ、十字砲火を浴びている。農協の力を分散させ、反TPPの力を削ぐことが、昨年夏から急に浮上した農協攻撃の隠された真の目的である。
 この二正面戦争は、アベノミクスの正念場である。安倍首相は、稲田朋美政調会長や有村治子大臣を矢面に立て、眦を決して戦いに臨んでいる。
 だからといって、怯んでいる訳にはいかない。農村と農業と農協の存続を賭けた、最終戦争になるかもしれない。だから、二正面とも勝ち抜かねばならない。
 正義は農協の側にある。

 

(前回 問答無用の農協監査論議

(前々回 財界のための農協監査

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