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農協を「分割して統治せよ」という暴挙2015年2月9日

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【森島 賢】

 「分割して統治せよ」は、古代ローマ以来、現在にいたるまで、支配者の統治の要諦のようだ。
 支配者は、被支配者が互いに心をあわせ、1つに団結することを嫌う。被支配者を2つに分割して、互いにいがみ合わせ、片方だけを支援する。そうして、団結にひびを入れ、力を削ぐほうが統治しやすい。これは、狡猾な支配者が、古代に発見した万古不易の真理である。
 だから、「万人が1人のために」心を合わせる協同組合は、もともと嫌いなのだ。
 いわゆる農協改革でも、安倍晋三首相と、その取り巻きは、支配者になったつもりで、この統治の要諦を応用しようとしている。
 だが、「国民による」国民のための政治を行う民主主義国では、政治の支配者は国民自身なのである。
 首相は、リンカーンと違って、民主主義を信奉していないのだろうか。首相は支配者ではない。支配者である国民に奉仕する公僕なのである。それは、選挙のときに思い知らされる。支配者である国民に対して忠実を装おい、忠誠を誓っている。

 農協の信用事業や共済事業の分離も、全中の農協としての否認も、全農の株式会社化という農協からの分離も、そして、准組合員の排除も、この要諦を応用している。分割してそれぞれの力を弱め、農協の全体としての総合力を弱めたいのだ。
 そうすれば、農協の反TPP運動の力が弱くなる。だから、アベノミクスの成長戦略にとって好都合と考えているのだろう。

 それだけではない。好都合なのは、分割された各事業の弱体化である。弱体化した事業に資本が進出できることである。
 資本が、農業などの非資本主義部分を破壊し、その荒野に資本が進出して、新しい搾取の分野を広げることは、出生以来のDNAに組み込まれている。そうして、帝国主義や植民地主義を経て、増強している。この悪質なDNAは、今もしぶとく引き継がれている。

 全中監査を法的に否定する政府案も、この要諦を応用している。もしも、この案が国会で採択され、実施されたらどうなるか。
 単協は、新しく作る新監査法人に監査を依頼する単協と、新監査法人は信頼できないとして、公認会計士に監査を依頼する単協、との2つに分かれる。それは、単協が新監査法人派と公認会計士派との2つに分かれることを意味する。そうして、両派をいがみ合わせたいのだろう。
 こうして、全国の農協の力を削ぐ。それが狙いだ。

 これまで、単協は全中の監査を義務づけられていた。この点について、実態に無知な政治家は、全中の権限だ、といっている。彼らは、全中がこの権限を悪用して、単協を縛りつけ、自由を奪って活動を規制してきた、と曲解している。だから、この規制をドリルで破壊するのだ、と息巻いている。
 だが、それは見当違いも甚だしい。

 全中は、単協を監査する権限を持っているというが、その言い方は間違いに近い。全中監査は、単協が農協法で義務づけられている監査の受け皿だ、という言い方が正確だ。
 だから、全中は監査に伴う責任を負っている。全中は、単協の健全な発展に助力する責任を、農協法で法律的に負わされているのである。
 だから、もしも万一、ある単協が破綻の危機にあえば、その責任は監査をした全中が負うことになる。それゆえ、全国の農協の中央機関である全中は、全国の農協の知恵と力を集めて、その単協の破綻を未然に防ぐ。まさに「万人(組合)は1人(組合)のために」である。
 全中は、こうした全国の農協の、協同組合間協同の、中枢部の役割を担っている。

 ここで、あらためて農協法を見てみよう。農協法はその第1条の、しかも冒頭で、「この法律は、農業者の協同組織の発達を促進すること…を目的にする。」としている。「農業者の協同組織」の中枢部である全中に攻撃を集中し、全中をドリルで破壊するというのは、農協法の全面否定である。
 首相がいう「戦後レジームからの脱却」が農協法の全面否定を意味するなら、それは農協の全面否定であり、農協の組合員である全国の全農業者に対する挑戦である。

 農協法に基づく全中の監査を否認すれば、どうなるか。具体的にみてみよう。
 そうなれば、単協の破綻を未然に防げなくなる。公認会計士はもちろん、新監査法人は農協の中枢機関でも何でもない。ただの一般社団法人にすぎない。ただの法人に、全国の農協に連帯をよびかけ、知恵と力を集めることなど、できる筈がない。だから、単協の破綻を傍観するしかない。
 全中が監査権限を使って、単協の自由を奪っている、などと言うのは、見当違いも甚だしい。単協と全中を分断し、たがいに反目させようとする悪あがき、というしかない。

 全中監査の法的否定の後に続くのは、農協の果てしない分割統治である。
 分割された事業部門の多くは、採算割れになって消滅するだろう。一部の採算部門は財界を経て、アメリカ資本に売り飛ばされるだろう。かくして、農協は全滅するだろう。それが狙いである。
 農村には、農協の瓦礫の山だけが残る。農村は人間が住めない所になる。

 この分割統治の究極の狙いは、農村の人たちの協同をすべて破壊し、農村の人たちを、互いに何の関わりもない、粘着力ゼロの砂漠の砂のようにしたいのである。バラバラに粉砕して、互いに反目させ、ぶつかり合いながら、風に漂わせたいのだろう。その方が統治しやすい。自由自在に操れる。

 こうした悪だくみを阻止するための、つばぜり合いが始まった。その第1回戦の、全中監査の法的存廃を賭けた攻防の幕が切って落とされた。農村の人たちだけでなく、明日はわが身と考える大多数の国民が、農協側の応援席で、かたずを飲んで見守っている。
 中央の大新聞の多くは、民主主義の守護神である役割をかなぐり捨て、政府の側に立って、事実に基づく確かな理由もなしに、農協の分割統治を声高に叫んでいる。つまり、人間らしい理性的な言葉を操れず、ただ大声で吠えて威嚇するだけの番犬になり下がっている。

 

(前回 悪意に満ちた農協監査論議

(前々回 神を信じた人も、信じなかった人も

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