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【コラム・森田実の政治評論】施政方針演説にみる安倍戦略2015年3月3日

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【政治評論家・東日本国際大学客員教授 森田実】

戦後以来の大改革としての農協改革と安保政策

 2月19日の衆議院予算委員会における民主党議員に対する安倍首相の開き直り的、感情的対応を見て、日本の政治は大丈夫なのかと思われた国民は少なくなかったのではないかと思います。安倍首相と菅内閣官房長官に傲慢さを感じた方は多かったと思います。
 上記の格言は『老子』です。昔の政治家は中国古典とくに孔子の『論語』をよく知っていましたが、最近の若い政治家は中国古典に無関心のようです。『老子』を読んだことがない政治家は少なくないようです。『老子』は「不争の徳」「謙虚に生きることの大切さ」を教えています。安倍首相などの世代の政治家の多くは『老子』を知りません。「謙虚」「不争」の大切さを理解できない若い政治家は少なくありません。残念なことです。

「善く戦う者は怒らず、善く戦に勝つ者は争わず」(老子)

 

◆目立つ安倍首相の自信過剰

 安倍首相が2月12日午後、衆議院本会議で行った施政方針演説を聴いた率直な印象は「安倍首相は高慢になっていて、先を急いでいる」――でした。安倍首相は、内閣の課題として「経済再生、復興、社会保障改革、教育再生、地方創生、女性活躍、そして外交・安全保障の立て直し。「いずれも困難な道のり。『戦後の大改革』であります。しかし、私たちは、日本の将来をしっかりと見定めながら、ひるむことなく、改革を進めなければならない。逃げることはできません」と述べ「改革断行」を宣言し、自信満々、農協改革と安保法制に強い意欲を示しました。首相の高姿勢が目立ちました。


安倍首相の「農政の大改革」の狙い

 安倍首相は「農政の大改革」に関して「何のための改革なのか。強い農業をつくるための改革。60年ぶりの農協改革を断行します」と述べ、この改革はTPP交渉妥結という新事態に備えたものであり、農協改革の目的がTPP協定への対応と、JA中央会制度の廃止にあることを示しました。しかし、なぜ農協改革なのか、国民は理解できません。
 なぜでしょうか? 一つのヒントがあります。2月19日の衆議院予算委員会において、自民党議員がTPP交渉と農協改革について、「アメリカの意向に従ったものではないか」「TPPに反対したJA中央会への遺恨ではないかと言う者がいるが、安倍首相はどう思うか」と質問しました。安倍首相は質問に答えて、このような見方を強く否定し非難しました。しかし、NHKテレビ中継の衆議院予算委員会の第一日という多くの国民が注目している場で自民党議員の質問への首相の答弁という形で、国民の中にある見方に反論したのです。安倍内閣の従米体質と反対者への報復的態度に対する疑惑は消えません。


15年夏までの政治日程

 通常国会の前半は平成27年度予算の審議です。与党は圧倒的多数ですから早期に成立するでしょう。その後に農協改革と安保法制などの重要法律案が審議されます。農協改革は成立が確実です。安保法制は自民党と公明党の政策合意ができれば成立するでしょう。ただし、憲法違反の疑いが残れば、混乱が起こるおそれはあります。
 5月に安倍首相は訪米し、オバマ米大統領と会談します。この会談は重要です。日米同盟にもとづく安保法制整備とTPPと農協改革が話題になり、その後の日本の政治に大きな影響をもたらすことになります。安倍首相はオバマ米大統領に抵抗できないでしょう。
 これ以上に大きいのは、第二次大戦後70年を記念する大事業が世界的に展開されることです。敗戦前の日本の歴史の修正をめざす安倍首相の歴史認識への批判が世界的に巻き起こるでしょう。安倍首相が自信の歪んだ歴史観にこだわれば、日本は孤立します。
 安倍首相は「村山談話を全体として継承する」と言いながら、表現を変える可能性を示唆し続け、「安倍70年談話」のための有識者懇談会を発足させました。このなかには安倍首相のオトモダチが多数占めています。「村山談話」を否定する動きが目立つことになれば、安倍首相批判の世界的包囲網が形成されるおそれ大です。
 安倍首相が、この安倍首相への世界的包囲網の形成という緊張状況に対抗して、過激なナショナリズムを高揚させ、憲法改正、自衛隊の海外派遣、戦後レジームからの脱却への道へ向かって逆行しようとすれば、日本は国際社会から孤立するでしょう。
 2015年夏、日本の政治は大きな曲がり角に直面します。中立的な平和主義の国として戦後とってきた自己抑制の道を歩み続けるのか、それとも軍国主義日本への道に方向転換するのか、日本はこの岐路に立っています。安倍首相の傲慢な政治姿勢が気になります。

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