協同組合は格差を根絶する2015年3月9日
トマ・ピケティ教授の著書「21世紀の資本」が世界中で読まれ、格差問題の議論が一種の社会現象になっている。格差縮小の処方箋は、富裕層に対する課税の強化だという。
この処方箋には賛成だ。だが、この議論は格差が発生することを容認し、前提にし、その後始末として、格差を縮小するにはどうするか、という議論になっている。
この前提に立つのではなく、格差を根本から断つ議論になっていない。
農協などの協同組合は、格差が発生することを、原理的に拒否している。
彼には、協同組合という経済組織、社会組織は、格差を容認しない、という認識がない。この点に不満が残る。
彼だけではない。野党第1党の民主党は、格差問題を争点に取り上げようとしている。この際、格差を容認しない協同組合としての農協を、どう評価するのか、知りたいところである。
ピケティの議論の骨格を紹介しよう。
所得は、労働所得と資本所得との2つで構成されるが、それに応じて、所得格差は、労働所得の格差と、資本所得の格差の2つに分けられる。
この2つの所得格差のほかに、資本所得格差の源泉となる、第3の格差ともいうべき資産格差がある。
労働所得の格差をみると、最近はスーパー経営者といって、日本でも年収が十億円の経営者が出てきた。某自動車会社の社長である。その結果、労働所得の格差が大きくなった。しかし、資本所得の格差と比べると、それほど大きくはない。
資本所得の格差をみると、圧倒的に大多数の国民は、資本所得はゼロである。その一方で、億万長者がいる。資本所得には、それほどに隔絶した格差がある。だから、所得格差の主な原因は、資本所得の格差である。
◇
彼は、次の3つの方程式が格差の基本方程式だという。

Iは、単純な式である。
IIは、右辺の状態が長いあいだ続くと、しだいに左辺に近づく、という式である。
IIIは、IとIIから導きだした式で、左辺は資本の取り分、つまり、資本分配率である。100%からこれを引き算すると、労働分配率になる。
このIIIに注目して、資本収益率(r)は、成長率(g)よりも大きいので、資本の取り分は、たえず多くなる。だから労働の取り分は少なくなる。したがって、格差は拡大する。
この r>g はピケティ説の基本方程式である。
◇
そこで、彼は3つの格差を是正する提案をしている。
1つめは、スーパー経営者の隔絶した高所得を是正するための、中・低所得者に対する教育と技能向上への公的支援の強化である。
2つめは、所得税の累進性の強化である。それとともに、逆進性が強い消費税のような間接税から、直接税である所得税への転換である。
3つめは、資本所得の格差の源泉である資産の格差是正である。また、格差の世襲の否定である。そのために、資産課税と相続税の、世界規模での創設と累進性の強化を提案している。世界規模というのは、タックスヘブンへの逃亡を防ぐためである。
◇
以上のことを、世界各国の、300年前からの膨大なデータに基づいて克明に分析し、提案した力作である。この点で深甚な敬意を表したい。学会にとって、刮目すべき壮大な貢献である。
しかし、これは格差が発生し、存在し続けることを容認したうえで、格差がもたらす不正義をどのように是正するか、という議論になっている。格差が発生する原因を突き詰め、それを根絶する、という議論ではない。
今後、世界中で格差が拡大する、と予測しながら、その根本原因を明らかにして、それを根絶する、という議論になっていない。
◇
さて、農協は、いうまでもなく協同組合である。協同組合には、格差は発生しない。
彼の議論を援用して確かめよう。
第1の労働所得の格差だが、農協の経営を預かる組合長の報酬が、一般職員の報酬と比べて極端に多い、という農協はどこにもない。某社長の十億円と比べれば、雀の涙ほどにもならない。つまり、労働所得の格差はない。
第2の資本所得の格差だが、農協は組合員の、原則として平等の出資で成り立っている。農協法の第28条1項の6では、1人の組合員の最高出資額を制限している。だから、大出資者はいない。つまり、資本所得の格差もない。
第3の資産格差だが、平等出資だから、資産格差もない。まして、世襲が問題になるほどの資産額ではない。
◇
以上のように、農協は格差が原理的に発生しない経済組織である。格差を是正することが正義だというが、是正すべき格差が協同組合には存在しない。
もともと、協同組合は格差を否定する、という正義を実現するための組織なのである。「万人は1人のために」をモットーにし、崇高な正義を追求する、誇り高い組織である。
◇
ピケティは、一部で資本所有の均等性について語っているし、資本の私的所有と公的所有についての議論もしている。だが、詳細な議論ではない。残念ながら、協同組合については、何も語っていない。
協同組合は、資本の私的所有からは遠く、公的所有に近い。資本の世襲など、思いも及ばない。
また、日本の農協の組合員世帯の人口は、4000万人で、無視できないほどの社会的大集団である。フランスの人口の6600万人と比べて、その6割を超える。
今後に期待したいのは、格差を組織原理として否定する経済組織としての、また、社会組織としての、協同組合の分析と評価である。
そうして、格差の根源を断つ新しい経済社会の理論的な構築を期待したい。
(前回 林新農水相の正念場)
(前々回 農協と農業を外資へ売るな)
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