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安保法制と農協の競争至上主義化2015年5月11日

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【森島 賢】

 統一地方選挙が終わり、連休が終わって、国会が再開された。政府は、この国会で安保法制を整備し、労働法制を改編し、新農協法案を成立させようとしている。
 このどれもが、競争至上主義を強めることに、その狙いがある。そのために、「戦後レジームからの脱却」というスローガンの下で、戦後ようやく獲得した平和主義と民主主義を放棄しようとしている。
 こうした危うい方向へ向かう道への第一歩を、この国会で踏み出すおそれがある。

 安保法制の整備は、他国からの軍事的脅威にたいする抑止力の強化だという。
 抑止するには、外交的抑止と軍事的抑止とがあるが、政府が考えているのは、もっぱら軍事的抑止である。
 これは、軍事力を強化することで、他国との軍事的競争において優位に立つことに至上な価値をおく考えである。他国の軍事的脅威に対して、武力で威嚇し、紛争を抑止する、という好戦的な考えである。
 当面の間、軍事力の強化は軍備拡張ではない。自衛隊の行動範囲の地理的および質的な拡大である。だが、やがて軍備拡張競争へ走るのは必然だ。その先に軍国主義がある。

 いずれにせよ、この考えは、憲法の平和主義とは相容れない。
 憲法第9条では、「…戦争と、武力による威嚇…は、国際紛争を解決する手段としては、永久に放棄する。」として、戦争放棄、つまり平和主義を規定している。
 政府の軍事的抑止の考えは、「武力による威嚇」で抑止し、「国際紛争を解決」しようとするもので、だから、この平和憲法に照らして、文字通り明白に違反している。

 新農協法案は、農産物の国際競争力の強化が目的だという。
 そのためには、その障害になり、岩盤のような規制で守られている農協に、ドリルで穴を開けて改革するのだ、という。だが、農協がそうした障害になっているという事実はない。
 ありもしない事実を基にし、農協を悪の虚像に仕立て上げて「改革」する目的は、農協を弱体化し解体することにある。そうして、経済的弱者である農業者の協同を破壊し、競争至上主義を持ち込んで、互いに孤立した農業者を苛烈な市場競争に巻き込むことである。そうして、敗者を排除し、単なる労働者に落としいれ、農業を財界に乗っ取らせようというのである。
 農協は、いうまでもなく協同組合である。苛烈な競争によって敗者が排除されることを否定する。つまり、競争至上主義とは対極にある。
 協同組合は、敗者を排除するのではなく、協同の力で活かすことを至上と考える。

 農協は、戦後の経済民主主義の申し子である。
 戦後、軍国主義の反省の上に立って、その経済的基盤である財閥と地主制を解体し、経済民主主義を確立することを、最重要な政策課題にした。
 農村で、経済民主主義を打ち立てるために、その中心的役割りを果たしたのが農協だった。つまり、競争至上主義による農村の経済民主化ではなく、協同組合による経済民主化の道を選んだ。
 この戦後の成果を放棄し、弱肉強食という競争至上主義に180度転換しよう、というのが新農協法案である。

 政府の安保法制案にしても、新農協法案にしても、その基礎には弱肉強食の競争至上主義がある。それは、協同組合主義とは相容れない。
 協同組合主義も競争を否定はしない。しかし、それを至上のものとは考えない。競争の結果、でてくる敗者を排除するのではなく、活かすという考えは、協同組合主義の中核にある。「万人は1人のために」である。だが、競争至上主義には、それがない。
 このような競争至上主義への転換は、とうてい受け入れられない。

(前回 統一地方選挙の後に迫る戦前回帰

(前々回 農協の正念場

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