中国の米は5kgで470円2015年6月23日
中国の大連へ行ってきた。
目的の1つは、中国では米を何円で売っているか、をこの目で見てくることだった。
大連がある中国東北部は、米の大産地である。品種をみると、中国の全土ではインディカ種が多いが、東北部では日本人好みのジャポニカ種が多い。ジャポニカ種だからといって、インディカ種とコストが違うわけではない。だから大連のジャポニカ種の米価は中国の米価を代表している。食味は、日本の技術者が協力して開発したものだから、日本産米と変わらない。
さっそく市中のスーパー店へいって米価をみてきた。最も大量に売れている米は、計り売りで売っていた。それを買ったのだが、0.498kgで2.38元だった。当日の相場は1元が19.76円だったから47.03円である。5kgでは470円になる。
これを日本が輸入するとして、運賃が何円かかるか、を専門家に聞いたところ、22トンで最高450米ドル、5kgあたりにすると13円程度とのことだった。足し算すると483円になる。これが日本での輸入米価になる。
一方、日本での国産米の米価は、いま1839円である。
◇
以上は、日中両国の米価を比較したものだが、小売価格の比較である。そこには米価のなかに多額の流通経費という米価にとって不純物が含まれている。それよりも卸売価格を比較すべきだ、という批判があるだろう。
その上、ここでは、いったんスーパーで店頭に並べてある米を買ってきて、それを日本へ輸出する、という仮定である。つまり、流通経費の過大評価がある。
筆者が、あえてこうしたのは、実際にこの目と耳で見聞きしたものを最重視したいからである。しかも、これは中国産米の輸入価格を推定するときの上限で、実際にはもっと安くなるだろうから、筆者の見解を補強している。
いったい、これは日本農業にとって何を意味するか。
◇
いま、日本の農政はTPPで大揺れにゆれている。TPPの大原則は、すべての輸入品の関税撤廃である。
まさか、政府は米も関税を撤廃しよう、などと考えてはいまい。しかし、米に国際競争力をつけ、やがて関税を撤廃しても輸入米と競争して勝てるようにしたい、と考えているようだ。
この考えは元気がいい。だが空元気だ。机上で考えているだけの空論で、国際米価の実態を、全くみていない。
中国の米価の実態をみれば、日本の米に国際競争力をつけようという主張は、上でみたように、1839円と483円とで勝負せよ、という荒唐無稽な空論になる。
◇
米価を安くするためのコストの引き下げに反対しているわけではない。それは不断に努力すべきことである。しかし、国際競争力をつけることを目的にしたコスト引き下げ、には反対である。
それを目的にしたのでは、いつまで経っても目的を達成できない。達成するまで、日本の米は高いと非難され続ける。その間ずっと、農業者は意気阻喪する。
また、百歩ゆずって、かりにコストを半減できたと仮定しても、まだまだ国際価格より高すぎる、と批判される。農業者は努力がたりない、と非難されつづける。
つまり、国際競争力の強化を目的にしたコスト引き下げは、農業者いじめ以外の何者でもない。
◇
なぜ、コストにこれだけの差があるのか。それを考えねばならない。
農業者や農協が怠けていたわけではない。そんな事実はない。それどころか懸命な努力を続けてきた。
労働生産性をみると1951年には、1時間の労働で2.123kgの米を生産していた。それが最近の2013年には20.66kgになった。労働生産性は、実に10倍になった。
◇
それでも、コストに差があるのは何故か。それは、歴史的、社会的な理由による。
つまり、経済的にみて、日本のように賃金が高い所で、しかも歴史的にみて、小規模営農がつづいてきた所では、どうしても米のコストは高くなる。高賃金なので機械化するが、機械化稲作は、小規模のばあい、どうしても機械効率が下がるからである。
こうした実態のもとで、無理矢理コストを下げるには、日本の賃金を引き下げる政策をとって機械化営農をやめるか、小規模農家を切り捨てて、勝手に生きてゆけ、という政策のもとで、大規模農業を強行するしかない。
◇
政府は、さすがに低賃金政策をとって、機械化営農から脱却して、戦前のような労働多投型営農にかえれ、とはいわない。
だから、小規模農家の切捨て政策をとろうとしている。小規模農家の農地を強権的に奪って、いったん村を更地にし、白紙の上に設計図を書くように設計し、設計図どおりの大規模営農を作りたい、と考えている。
だが、小規模農家は、自分が切り捨てられることを我慢しない。
◇
小規模農家は、コストを引き下げるため、懸命に努力している。しかし、大連でみられるような国際米価を横目でみながら、それと競争して勝つことを目的にしたコスト引き下げではない。50年後、100年後を見据えて、国民に安価な米を、将来にわたり、安定して供給する、という社会的使命を果たすことを目的にしたコスト引き下げである。その努力を、不断につみ重ねている。
そのために、小規模農家は、農協の仲間とともに、小規模農家である自分を犠牲にするのではなく、自分を生かしながら、どのようにしてコストを下げ、社会に貢献するか、を懸命に模索している。
それに冷や水をかけるような、小規模農家の切捨て政策は、とうてい受け入れられない。それが、大連を玄関口にした、満州(中国東北部)移民の教訓でもある。
(前回 小規模農家切り捨ての歴史)
(前々回 地方創生という傲慢)
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