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中国が嫌いになったEさんへ2015年8月24日

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【森島 賢】

 Eさん、私の雑文についての、貴重なかつ率直な批評のお手紙を、ありがとうございました。「中国が大嫌いになりました」のところまできて、あまりにも率直な言い方なので、思わず笑ってしまいました(失礼)。
 そのお気持ちを、私なりに解釈してみました。
 それは日本の侵略戦争に対する中国のたび重なる謝罪の要求、つまり、中国は日本が何度謝れば気がすむのか、という嫌悪ではないか、と推察します。
 尖閣諸島などの問題も、念頭にあるのでしょうが、お怒りの根底には、謝罪の要求があると思います。

 中国の謝罪要求は、一般の日本人に対する要求というよりも、安倍晋三首相に対する要求だと思います。安倍首相は、侵略の定義は定まっていない、などと言って、日本の対中侵略を本心では認めていません。むしろ否定しています。つまり、本心では一度も謝ったことがないのです。8月14日の首相談話では、謝ったように見せかけましたが、本心で謝ったわけではありません。
 私は、いわゆる「満州事変」や「シナ事変」の実態をみると、それは、まぎれもなく侵略戦争だと考えています。

 安倍首相だけでなく、一般の日本人でも、対中戦争は侵略戦争ではなかった、欧米のアジア侵略に対してアジアを守るための、つまり、いわゆる大東亜共栄圏を作るための正義の戦争だった、と考えている人は少なくないと思います。
 そういう人の中には、親しい人が戦争で亡くなったという人がいるかも知れません。その親しい人が、祖国とアジアを守る正義の戦争ではなく、国家の重大犯罪である侵略戦争に参加して亡くなった、といわれるのは、遺族にとって耐えられないことでしょう。
 その気持ちは、私にも痛い程よく分かります。心からお悔やみ申し上げます。祖国のために生命を捧げたことに、深い敬意を表します。しかし、だからといって、あの戦争は正義の戦争だったとは思いません。侵略戦争だった、と考えています。彼らは侵略戦争を行った責任者の犠牲者だった、と思います。

 戦争の責任者といっても、天皇と軍部など、ごく少数の人だけではありません。大都市のマスコミ関係者と、村や町の知識人の、決して少数でない人たちは、戦争を煽っていました。彼らにも、戦争責任があると考えます。
 当時、新聞やラジオなどのマスコミは、言論統制のもとで批判精神を投げ捨て、軍国主義を鼓吹していました。新聞は、侵略が進むにつれて、号外を出し、販売部数を増やしました。その収益で、記者を戦地に派遣し、速報競争をしました。もちろん、軍部は大歓迎しました。ラジオは、実況放送さえしました。

 当時、新聞を読み、ラジオを聞いていたのは、知識人だけでした。
 村や町の一部の知識人は、戦争を煽り、戦意を高揚する、マスコミの報道を、無批判に村や町のなかに広めていました。
 村や町の多くの人たちは、身近にいる知識人の彼らを信頼していたので、村や町は戦争一色に染まっていきました。その陰には憲兵や特高が見え隠れしていました。

 こうした村や町の一部の知識人たちの考えを引き継いでいる人が、ごく少数ですが今でもいます。マスコミ関係者の多くは、当時のように右傾化しています。彼らは、首相の、日中戦争は侵略戦争ではなかった、という誤った考えを支持しています。中国の謝罪要求は、彼らに対する要求でもあるでしょう。
 彼らが心から反省し、首相に本心からの反省を求めなければ、今後も、中国は謝罪を要求しつづけるでしょう。日中関係は好転せず、あなたの怒りはおさまらないでしょう。

 私が危惧しているのは、当時と似た状況が、これから再現するのではないか、という懸念です。
 当時、日本は欧米諸国から経済封鎖を受けました。立場は逆ですが、いま、日本はアメリカと組んで、中国を封じ込めようとしています。それがTPPの狙いです。農協攻撃の狙いは、反TPP勢力の力を削ぐことです。安保法制案の狙いは、中国を封じ込めるための、日米同盟の軍事力の強化です。
 また、当時のように、今もマスコミは圧迫されています。先日、右翼といわれる百田尚樹氏が、沖縄の新聞を、財界の協力で広告費を減らしてツブセと暴言しました。マスコミは怯えています。多くの国民が、安保法制案を審議している国会を、連日連夜包囲し、抗議しているのに、ほとんど報道しません。一部の新聞は、好戦的な主張と解説で、紙面を覆っています。

 しかし、こうした動きは、戦後民主主義で鍛えられた、多くの国民の抗議で、やがて挫折するでしょう。
 安倍首相は、率先して自分の誤りを心の底から認め、その上で本心から謝るべきです。そうしないと、中国は今後も謝罪を要求しつづけるでしょう。いつまで経っても和解できないでしょう。

 ドイツでは、多くの知識人をはじめ、大多数の国民が、ナチスの侵略戦争を厳しく反省し、ヨーロッパ諸国に対して、心から謝罪しました。
 ドイツにも、親しい人でナチスの将兵になって戦死した人がいるでしょう。しかし、遺族たちは心の葛藤を乗り越えたのです。だから、ヨーロッパは和解できたのです。
 ドイツ人ができたのだから、日本人もできるでしょう。それを中国は要求しているのだ、と思います。
(長くなるので 続きは次号にします)


(前回 首相は誤った歴史観を訂正しなかった

(前々回 漂流するTPP

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