【コラム・森田実の政治評論】安保法案に立ち塞がる国民の平和意識2015年9月1日
第二次安倍政権発足以来、安倍首相の「戦後70年談話」がどうなるかに世界の注視が集まっていましたが、終わってみれば「大山鳴動して鼠一匹」の感があります。
8月14日発表された安倍首相の「戦後70年談話」の評判はあまり芳しいものではありません。第二次安倍内閣発足以来、安倍首相は、自らの独特の歴史観に立った「戦後70年談話」を発表しようと張り切っていました。有識者懇談会を設置し、安倍首相のオトモダチを多く入れて、持論の歴史修正を完成させようと企図しましたが、失敗しました。でき上がった談話は、明確な思想をもたない玉虫色の意味不明の内容でした
「大山鳴動して鼠一匹」(ホラティウス=古代ローマの詩人)
談話の焦点は、 20年前、村山富市首相が「戦後50年談話」で明確に述べた「侵略」「植民地支配」「反省」「謝罪」の4点を継承するか否か、でした。4点について安倍首相は、自分自身の考えをはっきり述べることを避けましたが、歴代内閣の姿勢を継承する、としました。苦しい間接話法をとりました。
ただし「謝罪」については「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を負わせてはなりません」と安倍首相の持論を述べ、謝罪打ち止めの姿勢を示しました。
安倍晋三氏ら自民党の右翼ナショナリストの政治家たちが20年前の「村山首相談話」と22年前の「河野洋平官房長官談話」を否定するときに使った論理が「後世の世代に謝罪の宿命を負わせてはならない」というものでした。これは安倍晋三氏ら歴史修正主義者たちの持論でした。安倍首相はこの持論を「70年談話」に入れました。「いつまでも謝罪することはしない」とのメッセージを韓国、中国に送ったのです。
しかし、これによって逆に謝罪問題は今後も尾を引くことになりそうです。謝罪問題は被害者側が納得しなければ区切りはつきません。加害者の側から「これでオシマイ」と言ってはならない性質の問題です。安倍首相はしてはならないことをしたのです。
◆変化した世論平和意識強まる
天皇は8月15日の全国戦没者追悼式で「平和の存続を切望する国民の意識...」「過去を顧み、さきの大戦に対する深い反省とともに、今後、戦争の惨禍を再び繰り返されぬことを願い...」と述べました。平和への強い決意の表明でした。日本国民の大多数は、8月14日の安倍首相談話よりも、8月15日の天皇の「おことば」に、より強く共鳴したのです。国民は天皇の誠実さに共感したのです。
この背景にあるのは国民意識の大きな変化です。2015年夏、日本国民の平和意識が高揚したのです。この結果、安倍政権が推進してきた安保法案について、「憲法違反の疑いのある戦争法案」との見方が広がりました。国民の過半数が安保法案の今国会成立に反対するようになったのです。とくに参議院での強行採決反対の世論が強まりました。
安倍政権と自公連立政権の指導者たちは、参議院でも自公両党の数の力で乗り切り、安保法案を成立させる構えですが、公明党の支持層の中に反対の声が広がっています。ある大都会地の公明党地方議員は「安保法案は戦争法案ではないし、憲法違反でもない、と毎日のように街頭で訴えてきたが、聴衆の反応はひどく冷ややかになっている」と語っています。多数の国民は安倍首相ら政府与党幹部の発言を信用しなくなっているのです。
国民の過半数が「戦争法案」だと思っている安保法案を、衆議院に続いて参議院でも強行採決したとき、政治はどうなるでしょうか。大混乱が起こるでしょう。少なくとも国会審議はストップしてしまうでしょう。2016年夏の参院選で、政府与党側の候補者は厳しい批判を浴びるでしょう。強行採決を阻止する動きが強まってきています。
◆参院での強行採決回避・修正の動き
参議院で安保法案修正の新たな動きが始まっています。自民党の動きは非常に鈍いのですが、野党各党は公明党への接近を強めています。自民党は強気ですが、参議院では自民党単独では過半数に届いていません。自民一党ではどうにもならないのです。
修正協議が成り立たなければ、自公両党だけで強行採決して成立させるか、継続審議か廃案にすることになるでしょう。いまのところ自民、民主とも修正には応じない立場ですが、状況が変わる可能性があります。参議院の存在意義が問われています。
2015年夏、とくに6月23日沖縄、8月6日の広島、8月9日の長崎、8月15日の終戦に関する報道を通じて、「戦争と平和」が国民的に議論され、国民の平和意識が高まりました。安倍政権は躍進の局面を終わり衰退の局面に入りつつあります。急速に広がった国民の健全な平和意識が、中国との対立激化と軍事力増強に向かって暴走する安倍政権の前に立ち塞がってきているのです。安倍自公連立政権の方向転換が求められています。
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