年寄り万歳2016年1月12日
郷里のM君と、久しぶりに四方山話をした。中学生のときからの友人である。
彼の村では、最近「働き者番付」を発表したそうだ。彼は第5位になった。相撲でいえば、横綱を別格として東小結になる。82歳でようやく三役入りを果たしたわけだ。
正月とも重なって、彼は、よほど嬉しいようだった。同時に、村の人たちの、年寄りに対する暖かい眼差しを見たように思った。それは、競争社会では見られない協同社会の暖かさだ。
第1位の東大関は、92歳の大先輩だという。村のことだから、実力と同時に年功序列も加味したのかもしれない。村の智恵である。そのほうが、若い働き者も納得しやすい。
君も第1位を目ざして、あと10年がんばれ、とエールを送った。その後も10年くらいは頑張って、横綱を目指せ、と励ましておいた。
◇
第1位の大先輩だが、彼は毎日トラクターに乗って、上州名物の空っ風の中を、元気よく走りまわっている。なぜトラクターか。
あるとき、彼は「年寄りになったのだから、車の免許は返上したほうがいい」といわれた。テレビでもそう言っていた。素直な彼は、それに従って免許を返上した。
だが、すぐに後悔した。車がなければ村では暮らしにくい。田んぼへ出るのも億劫になる。そこで思いついたのがトラクターというわけだ。
◇
農政でも同じようなことがある。
年寄りは田んぼを手放せ、という農政が横行している。テレビでもそう言っている。手放した田んぼは、町の企業が集めて大規模農場にするのだ、という。そのほうが強い農業になる、という。そうして、TPPに加盟し、国際競争に勝ち抜くのだそうだ。国際化は避けられないのだそうだ。国際化のために、年寄りは田んぼを手放せ、という理屈である。
年寄りを邪魔者扱いにする農政である。年寄りは国際化を妨害する悪者だから排除する、という農政である。
◇
しかし、こんどは素直で村一番の働き者の92歳の年寄りもマユにツバをつけるだろう。彼が田んぼを手放したとして、効率一辺倒の企業が、92歳の彼を雇うはずがない。たちまち、働き者番付の最下位に落ちるだろう。そんな国際化は要らない、と年寄りは考えるだろう。
村の若い働き者も、年寄りが田んぼにいなくなり、トラクターに乗って、村を颯爽と走り回る年寄りがいなくなるのを、いいことだ、とは思わない。だから、村じゅうでTPPに反対している。
(2016.01.12)
(前回 農協運動のねじれ)
(前々回 山下氏の空論が日本の農業を滅ぼす)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(133)-改正食料・農業・農村基本法(19)-2025年3月15日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(50)【防除学習帖】第289回2025年3月15日
-
農薬の正しい使い方(23)【今さら聞けない営農情報】第289回2025年3月15日
-
イタリア旅行の穴場【イタリア通信】2025年3月15日
-
政府備蓄米 初回9割落札 60kg2万1217円 3月末にも店頭へ2025年3月14日
-
【人事異動】JA全共連(4月1日付)2025年3月14日
-
【人事異動】JA全中(4月1日付)2025年3月14日
-
(426)「豆腐バー」の教訓【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月14日
-
実需者と結びつきある飼料用米 支援継続を 日本農業法人協会2025年3月14日
-
オホーツクの恵み 完熟カボチャからフレークとパウダー JAサロマ2025年3月14日
-
日本一の産地の玉ねぎがせんべいに 産地の想い届ける一品 JAきたみらい(北海道)2025年3月14日
-
みおしずくがクッキーに 日野菜漬はふりかけに JAグリーン近江(滋賀県)2025年3月14日
-
地域の歴史受け継ぎ名峰・富士の恵み味わう かがり火大月みそ JAクレイン(山梨県)2025年3月14日
-
【人事異動】JA全厚連(4月1日付)2025年3月14日
-
高まるバイオスティミュラント普及への期待 生産者への広報活動を強化 日本バイオスティミュラント協議会2025年3月14日
-
岩手県大船渡市大規模火災での共済金手続きを簡素化 JA共済連2025年3月14日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第107回2025年3月14日
-
3月14日は「蚕糸の日」 大日本蚕糸会2025年3月14日
-
種苗・農産物輸出の拡大に向けた植物検疫のボトルネック解消「農研植物病院」へ出資 アグリビジネス投資育成2025年3月14日
-
【役員人事】農中信託銀行(4月1日付)2025年3月14日