飼料米倍増を邪魔するMA米2016年3月28日
23日、主要な飼料メーカーの4団体が、飼料米は120万トン受け入れ可能、とする意欲的な声明を発表した。最近の実績は103万トンだから、まだ17万トンの、つまり17%の余裕がある。
水田を活かし、米を飼料として利用することは、食糧自給率向上の、したがって、食糧安保の大道である。だが、いまの米政策は、この大道からそれている。
実績の103万tのうち、約半数の47万tはMA米である。残りの56万tが国産米である。もしも、MAを拒否すれば、120万tの全てを国産米で満たすことになる。56万tが120万tになる。倍増である。
しかし、輸入自由化という市場原理主義農政によるMA米が、日本の飼料米の増産を邪魔し、水田農業と畜産の発展を大きく妨げている。そうして、食糧安保農政への道に立ちはだかっている。いったい、いつまで邪魔し続けるのか。政府は、邪魔なMA米の輸入をやめることを考えていない。それどころか、政府は、TPPでMA米を増やすことに合意した。
MA米をやめて、国産の飼料米の56万tを120万tに増やす、ということは、どんなことか。
56万tを120万tにするのだから、差の64万tの増産になる。これは、米どころの北陸3県の収穫量の48万tよりも多い。つまり、今すぐにMA米をやめれば、今すぐに北陸3県の水田地帯を、もう1つ作っても足りない計算になる。
◇
しかし、政府はMA米の輸入に目をつむっている。政府の水田農業の振興策の主な柱は「攻めの農業」である。「攻めの農政」で、米の輸出を増やし、水田農業を振興しようという。それを鳴り物入りで宣伝している。20年前から宣伝し続けている。
しかし、20年経った昨年の米の輸出実績は、僅か7640t、つまり、0.764万tに過ぎない。飼料米の56万tとは2桁ちかくも少ない。今後、輸出米がどれほど増え、農業をどれほど振興できるというのか。
輸出の拡大による農業振興に反対ではないが、いったい、政府は農業振興を、まともに考えているのだろうか。農業振興による自給率向上や食糧安保を、考えているのだろうか。
農業振興を考えるのなら、「攻めの農業」で目を吊り上げて、外国の相手を打ち負かし、僅かな量の米を輸出する、などと考えるのではなく、MA米の輸入をやめて、国産飼料米の大幅な拡大に、もっと力を注ぐべきだろう。
◇
この120万tは、今すぐにでも飼料会社が受け入れられる量である。将来はどうか。
政府は、450万tの飼料米が利用可能と試算している。いまの米の生産量は、全体で863万tだから、約5割増になる。大幅な増反になる。減反などしていられない。日本農業は一変するだろう。
日本の人口は、これから減るから、米の需要量は先細りになる、という俗説がある。政府が発信するこの俗説を、無批判に肯定する俗流の評論家がいる。しかし、米を飼料にすれば、米の需要量は先細りどころか、政府の試算でさえ、1.5倍に激増する。
◇
しかし、政府はMAの廃止による飼料米の増産から国民の目をそらさせ、米の飼料化の要求に耳をふさいで、米輸出に耳目を引きつけようとしている。何故か。その理由は、国の内外にある。
国外をみると、飼料米の増産は、アメリカからの飼料穀物の輸入を減らすことになる。アメリカは黙っていないだろう。これまでも日本の穀物政策に対して、さまざまな圧力をかけてきた。政府は、それを恐れている。
だが、それは日本の農業政策への露骨な介入であり、食糧安保政策への干渉である。日本は独立国なのだから、政府は毅然として、それを拒否すべきである。
◇
国内をみてみよう。飼料米の増産は、そのための財政支援の金額を増やすことになる。それは食糧安保のための、当然のコストである。
しかし、財界はそれを認めようとしない。農業振興を考えず、食糧安保を考えず、ひたすら安上がり農政を要求し、私利私欲の追求に走っている。また、アメリカを恐れ、ときには、アメリカの要求に悪乗りしている。
◇
こうした状況のなかで、政府はアメリカと財界の言いなりになって、MA米の輸入を続け、TPPのもとで市場原理主義農政を強行しようとしている。
これに対峙するのは、食糧安保農政である。決着は、金力ではなく、選挙でつけることになる。日本は民主主義国だから、農業者も財界人も、同じ1票の選挙権を持っている。日本は独立国だから、もちろんアメリカに選挙権はない。
参院選は近い。いまこそ農業者が政治力を結集し、食糧安保をねがう大多数の国民と連帯して、TPPやMAに反対し、食糧安保農政への転換へ向けて、政治力を発揮する時である。
(2016.03.28)
(前回 TPPの悪質な欺瞞)
(前々回 反TPPのうしろめたさを捨てよう)
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