【コラム・ここがカンジん】信用事業分離への布石 JAバンクの方針2016年3月30日
去る3月16日の農林中金総代会でJAバンク運営の考え方を示す「JAバンク基本方針」が改定された。この基本方針のなかに、JA信用事業を信連・農林中金へ事業譲渡する内容が初めても織り込まれた。このことについて、JAの大方の見方は、事業譲渡は自由選択なので問題はない、また、事業譲渡の規定は平成13年にJAバンク法ができる時にすでに盛り込まれており、何ら新しいことではないというものだろう。
しかし、こうした見方は事態を大きく見誤ることになるだろう。それは、農水省の事業譲渡に対する考え方がJAからの信用事業分離という明確な意図のもとに行われようとしているからだ。今回のJAバンク基本方針では、JAが組織再編を行う場合、合併による取り組みが基本となることに変わりはないが、JAが営農経済事業に注力するため自ら希望して信連または農林中金への信用事業譲渡(代理店化含む)を行う場合等について円滑な信用事業譲渡の実現を後押しするために必要な支援措置を設けるとしている。
今回の措置でわれわれは、次のことに留意が必要だろう。それは、もちろん農林中金にはそのような意図はないだろうが、今後農水省指導により事業譲渡が目的となって、事業譲渡を進めないJAは農業振興に注力していないJAというレッテルが張られることになりはしないかということである。そうなれば、事業譲渡はJAの自由選択と言っても、それだけに終わる保証はない。
JAを営農経済事業に注力させるために信用事業の事業譲渡を行うという考えは、平成26年6月に政府閣議決定された「規制改革実施計画」に盛り込まれており、今回のJA改革の本丸である。今回事業譲渡の内容がJAバンク基本方針に盛り込まれたことは、4月からの改正農協法施行に合わせ、JAからの信用事業分離のシナリオが具体的に動き出したとみるべきである。
今後、准組合員の事業利用規制の猶予期間である5年を待たずとも、公認会計士監査への移行が行われる平成31年10月を前にして、破たんの未然防止として、またそれに加えて、JAからの事業譲渡がほとんど進んでいないという状況であれば、農水省は、だから何時までたってもJAは農業振興に本気で取り組む気はないと事業譲渡を迫ってくる可能性が高い。
ここで再び前回同様の手口で、准組合員の事業利用規制を人質にされつつ、信用事業の事業譲渡の強制措置(外形標準の設定、一定規模以下貯金量のJA、都市化地帯のJAなどの条件設定)を打ち出されたら、JAグループはどのような態度がとれるのか。JA解体を意図した今回のJA改革への対応として、行政はいずれ悪いようにはしないなどというのんきな姿勢では再び完全敗北の道をたどることになるだろう。JAグループには、今からそのような状況をつくり出さない取り組みが求められている。同時に、主張すべきは主張し、広く議論を巻き起こしてJAへの理解を広げて行く以外に事態解決の道は開かれない。
20年以上も前から事業譲渡を進めてきた漁協は、漁業不振で事業譲渡に追い込まれたのであり、事業譲渡によって何ら漁業の振興が進んでいるわけではない。JAも農業振興の努力が不可欠であるが、TPP交渉を見るまでもなく、確固たる農業政策の確立なくして農業振興はありえない。事業譲渡を進めれば、農水省の思惑とは全く逆に、JA経営はさらに厳しくなり、農業振興は難しくなるだろう。
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