「所得増大」の落とし穴2016年6月20日
農政の目的は、農業者の所得の増大だ、という人がいる。それは、誰しもが正面からは否定できない。しかし、ウサン臭い政治家が声高にいうと、警戒したくなる。そこには、大きな落とし穴が、口をあけて待っている。
かつて、原発の廃棄物処理場を選定するとき、担当大臣が「最後はカネメでしょ」と発言し、顰蹙をかったことがある。それと同じ発想ではないか。
所得増大が第1の農政目的に急浮上したのは、TPPが大筋合意しようとしていた時だった。農業者にカネをバラ撒くことで、農業者にTPPを容認させよう、という発想である。TPPを容認しなければ、所得増大のための農政を打ち切るぞ、というムチを見せながら、アメ=カネをバラ撒くという卑劣なやりかたである。それが今も続いている。
農業者は、所得増大だけを目的にしている訳ではない。農業者には、国民の命の糧の食糧を供給する、という崇高な使命がある。この使命を果たしてもらうために、国民は農業者の生活を保証する義務がある。所得が少なければ増やさねばならぬ。それを制度として固定するための、恒久的な法制を築き上げねばならぬ。農政の主な役割りは、ここにある。
しかし、いまは、そうではない。農業者にTPPを容認させるための所得増大が主要な農政である。これは、まともな所得増大ではない。
TPPを容認すれば、輸入農産物に日本市場が蹂躙され、農業者の所得が増えるどころか、減るのは明らかだ。日本の農産物の輸出が増えるというが、焼け石に水だ。
◇
所得増大という今の農政の、もう1つのウサン臭さは、何でもカネメで考える、という拝金主義に起因する。この考えの大元に、市場原理主義がある。
市場原理主義は、市場原理に絶対的な価値をおき、市場価格で全てを評価する。その極致にTPPがある。
市場原理主義農政の行きつく先、TPPの先に何があるか。所得増大政策で、僅かに所得が増える人が出てくるかもしれない。しかし、多くの若者は、農業だけでは生活できなくなる。高齢者は、邪魔者扱いされる。そうして、農村に医療難民や買い物難民が続出する。
農業者は、このような市場原理主義農政は拒否するだろう。
農業者は、カネだけでは動かない。農業の使命を、あくまでも追求するだろう。
◇
農業者の所得増大をはかり、農業者の崇高な使命を果たしてもらうために進むべき道は、市場原理主義への道ではない。まして、TPPへの道でもない。
農業者の所得増大を誠実に追求するのなら、それを孫や子の世代にわたって阻害するTPPに目を覆うのではなく、TPPを真正面から見据えねばならない。TPPに対峙し、TPPに反対し、当面するTPPの国会批准を阻止しなければならない。
この要求を、20日後に迫った、こんどの参院選で各候補者に突きつけよう。
◇
所得増大の大道は、TPPを阻止したうえで、飼料米を含む米の生産費を補償する制度を、恒久的に法制化することである。米だけではない。主要な食糧の生産費を償う制度の恒久的な法制化こそが、所得増大の王道である。
この当然な要求を、こんどの参院選で各候補者に突きつけよう。大多数の国民は同調するに違いない。
(2016.06.20)
(前回 自民党公約の厚顔無恥)
(前々回 農協攻撃で民主主義を踏みにじるマスコミ)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(136)-改正食料・農業・農村基本法(22)-2025年4月5日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(53)【防除学習帖】第292回2025年4月5日
-
農薬の正しい使い方(26)【今さら聞けない営農情報】第292回2025年4月5日
-
【人事異動】農水省(4月7日付)2025年4月4日
-
イミダクロプリド 使用方法守ればミツバチに影響なし 農水省2025年4月4日
-
農産物輸出額2月 前年比20%増 米は28%増2025年4月4日
-
(429)古米と新米【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月4日
-
米国の関税措置 見直し粘り強く要求 江藤農相2025年4月4日
-
「@スポ天ジュニアベースボールカップ2025」に協賛 優勝チームに「令和7年産新米」80Kg贈呈 JA全農とやま2025年4月4日
-
JAぎふ清流支店がオープン 則武支店と島支店を統合して営業開始 JA全農岐阜2025年4月4日
-
素材にこだわった新商品4品を新発売 JA熊本果実連2025年4月4日
-
JA共済アプリ「かぞく共有」機能導入に伴い「JA共済ID規約」を改定 JA共済連2025年4月4日
-
真っ白で粘り強く 海外でも人気の「十勝川西長いも」 JA帯広かわにし2025年4月4日
-
3年連続「特A」に輝く 伊賀産コシヒカリをパックご飯に JAいがふるさと2025年4月4日
-
自慢の柑橘 なつみ、ひめのつき、ブラッドオレンジを100%ジュースに JAえひめ南2025年4月4日
-
【役員人事】協同住宅ローン(4月1日付)2025年4月4日
-
大企業と新規事業で社会課題を解決する共創プラットフォーム「AGRIST LABs」創設2025年4月4日
-
【人事異動】兼松(5月12日付)2025年4月4日
-
鈴茂器工「エフピコフェア2025」出展2025年4月4日
-
全国労働金庫協会(ろうきん)イメージモデルに森川葵さんを起用2025年4月4日