【リレー談話室・JAの現場から】協同組合トップの"戦争"2016年7月13日
◆71回目の夏
日本共済協会の発行する月刊誌の取材で会員団体トップのインタビューを実施した。JA共済連、大学生協共済連、全自共、コープ共済連、JF共水連、全労済、全労済協会などだ。協同組合のトップは多彩なキャリアをもっている。
最年長が全自共(全国自動車共済協同組合連合会)・石橋友之祐会長で大正12年生れの94歳。福岡県久留米市の商家の出身。全自共は中小企業者の自動車共済・自賠責共済の再共済を実施する協同組合。石橋さんは東京での勤務日には福岡から交通機関を乗り継いで一人でやってくる。歩く姿は颯爽(さっそう)としている。
石橋さんは20歳を過ぎて召集され、フィリピンのセブ島での壮絶な戦争体験がある。海軍史に残るレイテ沖海戦やレイテ島の戦いは隣の島だ。すでに日本軍は戦闘能力を失い、敵の激しい攻撃を受けながら転進(退却)の日々で、生還できたことが奇跡であったという。
組織トップの人柄に触れて体験談をインタビューする趣旨だったので、石橋さんには、思い切って「なぜ生きて帰ることができたのか」を聴くことにした。「運がよかった」だけではないものは何か、と。取材時は、国内は安保法制論議で揺れていた。
石橋さんは、自らの生還をゆっくりと語り始めた。
◆ ◇
初年兵の教育期間中に衛生兵の募集があり応募した。99%生きては帰れないと思っていたが、衛生兵になれば、もしかして生きて帰れるかもしれないと考えた。募集には多くの兵隊が集まっていたが、どうにか試験に通り、衛生兵となることができた。さらに、優秀ならば内地の陸軍病院に帰れるという話があった。少し後ろめたかったが、必死で勉強した。
◆悲惨な逃避行
転進中はどこからアメリカ軍の攻撃を受けるかわからないので、昼は動けず、夜、ぼろきれを縄みたいに編んだものに火をつけて、それを振りまわして火種を絶やさずジャングルを移動した。攻撃を受けても逃げて隠れられるよう、山の尾根を歩くこともした。食料も尽き、その辺の草も食べた。草は案外食べられるものであり、人間は最後に「塩」「水」「火」があれば生き延びられるのだと知った。
兵隊は、みんなマラリヤにかかり、栄養失調と毎日襲ってくる悪寒と42度を超える高熱に耐えながら歩いた。この経験は筆舌に尽くしがたい過酷なもの。歩けなくなった人は自決するなど、やがてバラバラになっていった。
ジャングルの中では、他の日本兵や民間人とも会ったが、だれもが戦争の悲劇の中だった。終戦になり投降するときに、すでにマラリヤでほとんど歩けなくなっていた。その時、フィリピン人に助けられ、数か月ぶりに食事らしい食事をもらった。
◆家族への思い
なぜ、激戦地から生き延びて、日本に帰ってくることができたのか、私にもよくわからない。「軍隊は運隊」といわれるくらいだから、運も大きかっただろう。体力もないとダメだったろうし、生きるために必死に知恵を絞ったこともあった。その中で「生きて、親兄弟のもとへ帰りたい」という思いは強かった。というか、家族への思いが生きることへの意欲を失わせなかったのではないか。
しかし、いま考えてみても、私の家族だけが特別だったということはない。兄弟喧嘩をすると父に厳しく叱られた。母は近所の子どもも「さん」づけで呼んでいて、私は「友之祐さん」と呼ばれていた。そこは近所の家と違っていたと思う。近所のおばさんからは「友ちゃん」と呼ばれていたが、何かの時に、「あなたがそんなふうでしっかりしないから、友ちゃんと呼ばれるのです」と、ずいぶん叱られた記憶がある。
子どもであっても一人前に扱うという母なりの思いがあったかもしれない。母にひざまくらで耳かきをしてもらった思い出がある。子ども8人が大きくなるまで、母はやっていた。そうした家庭の些細な温かみや醍醐味が心に残り、ギリギリの境地にあって生きて帰りたいという意欲につながったと思う。
◆ ◇
今年も夏がやってきて、71回目のその日がやってくる。
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